計画
本文約1,200字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
公園を散歩する男は、美しい女との宮殿での生活を空想する。続いて版画店で見た熱帯の風景に感化され、小屋での異国情緒あふれる暮らしを描き、次には旅籠屋でのささやかな幸福を思い浮かべる。これらの夢想を経た男は、家で一人、身体を移動させずとも計画だけで魂の旅と快楽は十分に得られるという思索を綴る。
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彼は淋しい大きな公園を散歩しながら独言つた、「あの女が襞の一杯ついてゐる贅を尽した宮廷服を着て、美しい黄昏の中を、広い芝生と泉水に向つた宮殿の大理石の石段を降りて来たらどんなに美しいだらう! なぜといつて、あの女は生れつき王女の風があるからな。」
少し経つて或る街を通りかゝつたとき、彼は一軒の版画店の前に立止まつた。そして紙挾の中に熱帯地方の風景の版画を見付けて独言つた、「いや! 私があの女の尊い生命を自分のものにしたいところは宮殿の中などではない。そんなところではくつろいだ気持になれはしない。おまけに、あの金をちりばめた壁はあの女の肖像を懸ける場所ではない。あの業々しい画廊にはしつくりした場所が一つもないのだ。たしかに、私が私の生命の夢を育てようと思ふなら、住むべき処はあそこだ。」
そして、その版画の細部を仔細に検べながら心の中でかう続けた、「海岸には、何といふ名だか忘れてしまつたが、奇妙なつやつやした木に囲まれた、丸木造りのきれいな小屋……空中には、人を酔はすやうな何とも言へない香……小屋の中には、薔薇と麝香のさかんな匂、一寸離れて私たちの小さな屋敷の後ろには、波のうねりで揺れてゐるマストの端が見える……私たちのまはりには、窓掛を透してくる薔薇色の光に輝らされて、洒れた花茣蓙と頭へ来るやうな香りの花で飾られた部屋――重い真黒な材で造つた葡萄牙ロコヽ風の珍らしい長椅子がある(その上で彼女は、軽く阿片を混ぜた煙草を吸ひながら、静かに、よく扇がれて坐るだらう!)。床材のむかうには、光に酔つた鳥のはばたき、小さな黒奴女のさざめき……夜になれば、私の夢の伴奏をしようとて、音楽的な木立どもが、憂鬱な木麻黄が、物悲しい歌をうたふ! さうだ、たしかに、私の欲しい飾りはあそこにあるのだ。宮殿などは何で私にかゝはりがあらう。」