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TORENDIA

琴の音

本文約3,100字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

両親を失い天涯孤独の身となった少年金吾は、世間から冷遇され非行に走る中、次第に心を歪ませていく。ある秋の夜、金吾は根岸に住む女性しづが奏でる琴の音を耳にする。琴の音色は清らかで美しく、その調べに触れた金吾は、これまで抱いていた社会への恨みや自身の荒んだ心と向き合うことになる。音楽を通じた魂の浄化と、金吾が自身の生き方を模索する姿を、樋口一葉が叙情的に描き出す。

樋口一葉

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🎧 琴の音 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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上

空に月日のかはる光りなく、春さく花のゝどけさは浮世萬人おなじかるべきを、梢のあらし此處にばかり騷ぐか、あはれ罪なき身ひとつを枝葉ちりちりの不運に、むごや十四年が春秋を雨にうたれ風にふかれ、わづかに殘る玉の緒の我れとくやしき境界にたゞよふ子あり。

母は此子が四つの歳、みづから家を出でゝ我れ一人苦をのがれんとにもあらねど、かたむきゆく家運のかへし難きを知る實家の親々が、斯く甲斐性なき男に一生をまかせて、涙のうちに送らせん事いとほし、乳房の別れの愁らしとても、子は只一人なるぞかしと、分別らしき異見を女子ごゝろの淺ましき耳にさゝやかれて、良人には心の殘るべきやうもあらざりしかど、我が子の可愛きに引かれては、此子の親なる人をかゝる中に捨てゝ、我が立さらん後はと、流石に血をはく思ひもありしが、親々の意見は漸く義理の樣にからまりて、弱き心のをしきらんに難く、霜ばしら今たふれぬべきを知りつゝ、家も此子も、此子の親をも捨てゝ出でぬ。

父は一人ゆきたることもあり、此子を抱きて行きたることもあり、これを突きつけて戻りたることもあり、我れは此まゝ朽はてぬとも、せめては此子を世に出したきに、いかにもして今一たび戻りくれよ、長くとには非ず今五年がほど、これに物ごゝろのつきぬべきまでと、頼みつすかしつ歎げきけるが、さりとも子故に闇なるは母親の常ぞ、やがては戀しさに堪えがたく、我れと佗して歸りぬべきものをと覺束なきを頼みて、十五日は如何に、二十日は如何に、今日こそは明日こそはと待つ日空しく過ぎて、はては尋ね行きたりとて、面を合はする事もなく、乳母にや出けん、人の妻にや成りけん、百年の契りは誠に空しくなりぬ。

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