TRENDIA CLASSIC

一本刀土俵入 二幕五場

長谷川伸

1 / 25

〔序幕〕 第一場 取手の宿・安孫子屋の前

第二場 利根の渡し

〔大詰〕 第一場 布施の川べり

第二場 お蔦の家

第三場 軒の山桜

駒形茂兵衛   老船頭    筋市

お蔦      清大工    河岸山鬼一郎

船印彫辰三郎  お君     酌婦お松

船戸の弥八   いわしの北  同 お吉

波一里儀十   籠彦     博労久太郎

堀下げ根吉   おぶの甚太

伊兵衛・女房おみな・料理人・帳付け・通りがかりの人々・近所の人々・赤金の升・盆持ちの良・渡しの船夫・渡しの客・子守子(一・二)・八公・買物の男女・そのほか。

[#改ページ]

〔序幕〕

第一場 取手の宿・安孫子屋の前

常陸の国取手は水戸街道の宿場で利根を越えると下総の国。渡しはそこの近くにある。

取手の宿場街の裏通りにある茶屋旅籠で安孫子屋の店頭は、今が閑散な潮時外れである。それは秋の日の午後のこと。

(安孫子屋は棟の低い二階建で、前と横とがT字型に往来になっている。角店のこの家は突ッつきが広い土間、その他は外から余り見えない。階下と二階の戸袋は化粧塗りの、漆喰細工で、階下は家号を浮きあがらせた黒地に白、二階は色漆喰の細工物で波に日の出)

(安孫子屋の角柱の処に菊の鉢が一つ置いてある。外側の窓の脇に榎の老木があり竹垣を四方に結ってある。その中で秋草が少し咲いている)

(二階は三尺障子が閉まっている)

店の前に料理人、帳付け、酌婦お吉、お松、その他が立って、道路の向うでしている喧嘩の方を見ている。そっちの方から喧嘩する男の声が聞えているが、だれの眼にもまだ見えていない、二階では近在からきている放蕩者が、酌婦を相手に遊んでいると見え、三味線の爪弾きの音が聞える。

長谷川伸の他の作品