中山七里 二幕五場
本文約23,600字 ・ 読了時間 約48分
あらすじ(AIが作成しました)
深川の材木堀で働く川並政吉は、江戸から遠く離れた飛騨高山の地で過酷な運命に翻弄される。ある男との争いや、流浪する夫婦との奇妙な関わりの中で、自身の抱える愛憎と道義の狭間に苦悩する。政吉は、浮き沈みする心と向き合いながら、かつての縁や罪の意識を抱えて、霧深い山道の中山七里で己の決着と対峙する。愛した女への思いと義理の間で葛藤し、自らの生き様を問い直す人間模様を描く物語である。
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〔序幕〕 第一場 深川材木堀
第二場 政吉の家
第三場 元の材木堀
〔大詰〕 第一場 飛騨高山の街
第二場 中山七里(引返)
川並政吉 女房お松 酒屋の作蔵
おさん 川並金造 同百松
流浪者徳之助 同三次郎 同高太郎
同おなか 同藤助 同老番頭
亀久橋の文太 木挽治平 猟師
餌差屋の小僧・恐怖した通行人・空家探しの夫婦・酒屋の小僧・深川の人々・高山の人々・そのほか。
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〔序幕〕
第一場 深川材木堀
深川木場の材木堀。秋の日が西に傾きかけた頃。
堀の中には角材が浮いている。堀際には立木があり、一方には木挽の仕事座、一方には水揚げした角材がある。
木挽の治平が角材を枠にかけ、挽き目に時々栓を打ち込んでは、膝を立て腰をあげさげして、鋸をズイズイと入れている。
川並の三次郎(五十歳近い)が、角材の下に転木――二本か三本――を入れ、その歪みを正しながら「ようッこのウ」と音頭をとっている。三次郎の使用した鳶口の付いた竹棹――それは川並専用の道具――は、立木にもたせ掛けてある。
川並の藤助、金造その他は鳶口棹を角材に打ち込み、三次郎の取る音頭の、ようッこのウを受けて「よう」と曳いている。
三次郎 ようッこのウ! 藤助等 よう。 三次郎 (手を挙げ)待った待った、ここでいいとしよう。さあテコをかってくれ、コロを抜いてしまうから。 金造 おい来た、そらよ。(鳶口棹を木製のテコに持ちかえ、角材の下に入れ)ううむ。 藤助 待て待て俺が一丁加わるから。(テコを入れ)それ来た、よいやさの、ううむ。 金造等 ううむ。 三次郎 もうちッともうちッと。よし来た。(コロを一本抜き取り)ご苦労ご苦労。さあもう一丁。(次のコロを抜きにかかる)
名ある旗亭の女中おさん(二十二、三歳)通りがかりの振りをして川並の仕事を見ている。
木挽治平、のっそり挽き目に栓を打込みかけ、おさんに心づいて見ている。
おさん、川並たちの中に求める男が見えないので、あちこちと見廻す。
治平はニヤニヤしながら仕事にかかる。
おさんは思わず前に出て、抜き取られて放り出してある一本のコロに躓く。