ある夜一人の見も知らぬ学生が訪ねて来た、
洋服の袖口のところが破れてゐて
小さな穴から下着の縞模様をのぞかせてゐた、
学生は――諷刺文学万歳!と叫んで
そして私に握手を求めた
――曙ですよ、
あなたのお仕事の性質は、
日本に諷刺文学が
とにかく真実に起つたといふことは
決定的に我々の勝です、
彼はかう言つて沈黙した、
ところで我々はそれから、
ぺちやくちやしやべつた揚句は
――諷刺作家は
芸術上の暗殺者で
真に洗練された文学的技術者でなければならぬ、
といふ結論に二人は達した、
――ナロードニキ達は、
とまたしても学生は
破れた洋服の袖口をふりまはす、
何故この学生が古臭いナロードニキに
惚れこんでゐるか
それには理由がある
彼は来年大学を卒業する
彼の卒業論文は
『ナロードニキ主義の杜会史的研究』といふのだ、
あまり香ばしい論文の題材ではなかつた
あんな国に材料を求めるのは
教授会議では喜ばない筈だ。
×
こゝで読者諸君と無駄話をしよう、
――人生は永遠なり、といふ世間的な
解釈を僕は信じてゐるものだ、
僕の詩は、閑日月ありだ、
詩は短かいほど純粋なり――といふ
見解をもつた読者は、他の詩人の読者であつても、
僕のための読者ではない、
この種の読者は、日本の長つたらしい
糠味噌臭い小説は読む根気はもつてゐても、
詩人の詩の長さは否定する、
小説には気が永く、詩に対してはセッカチな読者、
この種の読者は、僕の詩をこの辺で放りなげて欲しいものだ、
僕は驢馬のやうに路草を喰ひたいし、
愚かなことを、ながながと語りたいだけだ、
詩の結論――勿論そんなものはない、
結論とは繩のことだ、
僕は諸君をしばる繩をつくりたくない、
僕は詩のリズムを考へない詩人のやうにも
考へちがひをしないでほしい、
ただ世の詩人のやうに
今時七五調のリズムで歌ふ勇気がないだけだ、
『月は糞尿色の雲に取りかこまれ
地へむかつてしたたり落ちる月の光りは
黄金色に稲穂をそめる、
風がやつてきて月の光りを払ひのけると
稲穂は色あせて、
百姓の子供のやうに白く痩せて立つてゐる』
この程度のリズムなら認めるし
かういふ美文が読者が嬉しいのならいくらでも書く、
僕は毛脛をぼりばり掻きながら詩を書いてゐる、
作者が緊張してゐないのに