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TORENDIA

書簡 大杉栄宛

本文約2,200字 ・ 読了時間 約5分

あらすじ(AIが作成しました)

千葉県夷隅郡御宿の上野屋旅館から、大杉栄に宛てた書簡。千葉での日々を報告しつつ、大杉との再会を期す。また、神近市子や保子との関係について心情を吐露するほか、自身の経済的自立への意志を強く表明する。周囲の評判や経済的な誤解に対し、真実を明らかにしようとする葛藤や、保子と対面したいという切実な願いを綴り、関係者との向き合い方や自身の姿勢を丁寧に説く内容となっている。

伊藤野枝

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🎧 書簡 大杉栄宛 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館

今朝あなたへの手紙を出して仕舞ふと直ぐに仕事にかかるつもりで居りましたが、何んだかグルーミーな気持になつて仕舞つて、机の前に座るのがいやで仕方がありませんので、障子を開けてあすこから麦の穂を眺めながら、あなたの事ばかり考へて、五六本煙草を吸つて仕舞ふまで立つてゐました。ひどい風で、海岸から砂が煙のやうに飛んで来るのが見えるやうなのです。

こちらでも、あなたの評判がまた馬鹿にいいんですよ。そんないやな処にゐないで、早くいらつしやい、こちらに。お迎へにゆきませうね。あなたが私と直ぐにゐらつしやるおつもりなら、土曜日の昼頃そちらに着くようにゆきませう。そして日曜の、あなたのフランス語がすんだら直ぐに五時のでこちらに来るようにしては如何です。それまでには、私の方でも少しはお金の都合は出来ると思ひます。さうしませうね。大阪の新聞の方、神近さんの名をそのままに書きましたよ。社の方で差支へがあれば頭字にでも直すようにしませう。

保子さんには、もう少し理解が出来るようにはお話しになれませんか。私は何を云はれてもかまひませんが、もう少しあなたと云ふ事をお考へになれないでせうか。私には、何んだかもつとあなたがよくお話しになれば、お分りにならない方ではないやうな気がします。けれど、あなたは保子さんによくお話しをなさる事を、面倒がつてゐらつしやるのではありませんか、もしさうなら、私は出来るだけもつと丁寧にあなたがお話しになるようにお願ひします。どうでもいいと云ふやうな態度はお止しになつた方がよくはありませんか。勿論、私はまだ何にもあなたにそんな事はお聞きしませんから分りませんけれど。さうでなければそれ以上仕方はありませんが、あなたが神近さんに対して、また私に対して、さしのべて下さつたと同じ手を、保子さんにもおのばしになる事を望みます。

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