書簡 大杉栄宛
本文約1,100字 ・ 読了時間 約3分
あらすじ(AIが作成しました)
千葉県御宿の旅館に滞在する書き手が、東京の大杉栄宛てに自身の切実な心境を綴る。会えない日々に募る焦燥感や孤独を吐露し、相手への抑え難い愛情と対面を熱望する心情を伝える。また、電話での通話を心待ちにする様子や、離れた場所で過ごす日々の鬱屈、そして子供の世話を頼む婆やのことなど、日々の生活の中での揺れ動く感情と、相手との関係性にまつわる複雑な思いを率直に書き記す。
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宛先 東京市麹町区三番町六四 第一福四萬館 発信地 千葉県夷隅郡御宿 上野屋旅館
会ひたくない人に無理に会はなくてもよろしうございます。何卒御随意になさいまし。一生会はなくつたつて、まさか死にもしないでせうからねえ。そんな人に来て頂かなくても、私一人で結構です。何故あなたはそんな意地悪なのでせう。
今ここまで書いて、あなたの第二のお手紙が来ました。宮島(資夫)さんのハガキと一緒に。会ひたい会ひたい、と云ふ私の気持がなぜそんなにあなたに響かないでせう。今日は、朝から私は気が狂ひさうです。昨日も一日、焦れて焦れて暮しました。蓄音機をかけて見ても、三味線をひいて見ても、歌つて見ても、何の感興もおこつては来ません。だん/\にさびしくなつて来るばかりです。煩くなつて来るばかりです。あなたの事ばつかりしか考へられません。他の事はとても頭の中にぢつとしてはゐないのですもの。私だつて、あなたがたやすくゐらつしやれない事だつて知つてゐるんですけれども、それだからつて、だまつてはゐられないんですもの。それにあなたは、あんな意地悪を云つては私を泣かして、それでいいんですか。
さつき郵便局までゆきましたら、東京と通話が出来るんです。うれしいと思つてかけようと思ひましたら、他の人が今かけて出るのを待つてゐるんだと云ひますので、なか/\駄目らしいのでよしました。明後日の朝かけますからお宅にゐらして頂だいな。五分でも十分でも、こんなに離れてゐてお話が出来るんだと思ふとうれしいわ。それをたのしみにして、今日とあしたを待ちますわ。
神近さんは何んだかお気の毒な気がしますね。でも、それが彼の方の為めにいいと云ふのならお気の毒と云ふのは失礼かもしれませんのね。でも、本当にえらいのね。其処まで進んでゐらつしやれば、でも、もう大丈夫でせうね。あなたと神近さんの為めにお喜びを申しあげます。