嫁泥棒譚
本文約7,100字 ・ 読了時間 約15分
あらすじ(AIが作成しました)
著者自身の祖母がかつて経験した、寺からの帰途での強引な拉致による婚姻という実話を手がかりに、地方に残る「嫁泥棒」という風習を綴る。本書は、恋人同士が合意の上で駆け落ちとして行うものから、両親の承諾を得るための暴力的な掠奪、さらには結婚儀式としての真似事に至るまで、各地の事例を挙げつつ、女を物品扱いする社会通念や、男女関係の進化の過程における女の地位を多角的な視点から論じる。
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盗まれた祖母の実話
『ね、お祖母さん、うちぢや、Aにも親類があるのでせう?』
私は、祖母から彼方此方の親戚との関係を聞かされた時、ふと思ひ出してかう尋ねました。
『ないよ、何故ね?』
祖母は妙な顔をしてさう答へました。
『だつて私のちひさい時分に、よくAの叔母さんつて人が俥に乗つて来た事を覚えてゐますもの』
『あゝさうかい、あれはお前の本当の伯母さんさ、よく覚えてるね。もう死んでしまつてゐないよ』
『ぢや矢張り、お父さんの妹?』
『お父さんより上だよ、だけど、あれは此処のうちの子ではないよ。お祖母さんが前にお嫁に行つて産んだ子さ』
『ぢや、お祖母さんは、うちに来る前に、何処かに行つたの』
『あゝ、Aに盗まれて行つたのだよ』
『へえ、お祖母さんが?』
私は思はずさう云つてお祖母さんの大きな眼鏡をかけた、皺だらけな顔をながめました、もう少しでふき出しさうになりながら。でも考へて見れば、そんな事は別に、をかしがらずにはゐられない事でも何でもありませんでした、何故なら、私達は子供の時分からよく、何処其処のお母さんは盗まれて来たのだとか、何処の娘が盗まれたとか、何処の娘を盗み出してゆくのだとか云ふ話は聞き馴れてゐるのですから。しかし、私の祖母が盗まれた――などゝ云ふ事は私にはどう考へても、あまりに突飛な事のやうにしか思へませんでした。けれど、祖母はその盗まれた当時のことをポツポツ思ひ出すやうにして私に話して聞かせました。
寺詣りの帰途に盗まる