監獄挿話 面会人控所
本文約22,600字 ・ 読了時間 約46分
あらすじ(AIが作成しました)
東京監獄の面会人控所で待つ龍子は、収監された同志のMと再会し、獄中の生活や収監の経緯について語り合う。Eを含む仲間たちが公務執行妨害の疑いで拘束されたものの、その真意は不透明なままである。面会が許可され、龍子は網越しにEと言葉を交わすが、短時間で強引に引き離される。長時間の待ち時間に対してわずかな面会時間しか許されない現実や、同志たちの安否を思いながら、龍子は焦燥感を抱えて監獄を後にする。
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一 静かな読書生活
受附の看守が指した直ぐ向側の『面会人控所』の扉は重く閉されてゐた。龍子は新しい足駄の歯がたゝきにきしむのを気にしながら静かに歩み寄つて其の扉に手をかけた。重い戸が半ば開くと、直ぐ正面に同志のMの蒼白い顔が見えた。
此の控所は、東京監獄の大玄関の取りつきの右側で、三間ばかりの奥行をもつたそのたゝきの土間にそふてゐる細長い室であつた。這入つて左へ突き当つた廊下へ上る扉口と入口を除いた外は、此の九尺に三間の細長い室の三方の壁には面会人の腰をかける為めの幅の狭い木の腰掛けが、恰度、棚のやうな工合に取りつけてあつた。廊下へ上る扉口と向き合つた南側の、前庭に面した壁の上の方に大きな窓が一つ開いてゐた。
Mは其の入口の正面に腰をかけてゐた。室の内には、傘や、下駄や、スリツパが、二三足おいてあつたが、面会人はMを除いた他には、三つか四つ位の子供を縞目もわからないやうな汚いねんねこで背負つた女房が一人隅つこにうづくまつてゐる外には誰もゐなかつた。
『もう済んで?』
思ひの外に人もゐず、ひつそりした室の内にMを見出した龍子は直ぐMの傍に腰を下しながらきいた。
『いや、まだです。僕は午後から――今S爺がY君に会つてゐる処』
『Sさんが? さう、ぢやあなたはWさんに会ふのね』
『えゝ、僕がY君のつもりでしたけれどSさんが先きに来てさう云ふ手続きをしてゐたもんだから――』
Mは昨日みんなで極めたのとは少し手順が違つて来た事を龍子に説明した。それから二人は、昨日、此処の未決にゐる四人が裁判所へ出た事を知つて、何うかして遇へないまでも皆んなでゐるのを知らせたいと思つて半日其処の仮檻の前に立ちつくしてゐた事や、思ひがけない四人の収檻についてのいろんな事を話し合つた。
『Mさん、あれも囚人のゐる処?』