TRENDIA CLASSIC

放心教授

森於菟

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「先達ては老生の面倒なる御願に対し早速御調査詳細の御回答下され難有存候。然る所貴文中○○大学教授○○○○氏現存の如く御認め有之候も同博士は××大学教授にしてたしかに昨年中物故せられ居候。賢弟も愈々完全なる Zerstreuter Professor になられたるものと感服仕候。呵々。」これは永年ドイツに滞在している親戚のH教授から私への書信の一節である。Zerstreuter Professor は訳すればボンヤリ教授で、ドイツでも昔から教授先生というものは世故にうといぼけ者と相場をきめ、アメリカ人を成り金、アイルランド人を吝ん坊とするように、よく漫画雑誌などの材料にせられたものである。例えば雨の日に蝙蝠傘の代りにステッキを差して歩いたり茹で卵をつくるつもりで懐中時計を湯の中に投りこみ卵を手にして見つめている類である。しかしかくのごとき放心家は現代の教授たる資格がないものでいわゆる眼から鼻へぬける底の明徹なる人物でなければならないとみえ、ドイツでも近来教授は一口噺の材料にはならない、将来学者たらんとするものは決して放心なるべからず、というのは実は先頃明朗冷徹を以て著名な某教授の隠退記念会の席上ある先生の話されたことであるが、実にごもっとも至極の次第、私も絶対賛成で、ここに放心教授伝を記して後進の戒めとする所以である。

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