魂魄分離
本文約2,600字 ・ 読了時間 約6分
あらすじ(AIが作成しました)
江西省南昌府の北蘭寺で科挙の準備をする魏生と張生は、厚い友情で結ばれていた。ある日、郷里へ戻った魏生が亡くなったと幽鬼となって現れる。張生は故人の頼みを快諾するが、対話の途中で幽鬼は形相を変え、張生を襲い始める。本書は、中国の伝説『子不語』に基づき、魂と魄が分離することで生じる怪異譚を辿りながら、解剖学の現場に立つ著者自身の死生観や、魂魄に関する古今東西の思想を考察する。
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明代末葉のころらしい。
江西省南昌府の城門外数里の地に北蘭寺という古刹があった。数名の若者がその寺内にいくつかの房を借り、進士となるのを目的として科挙に応ずる準備の読書をしていた。
その中で魏生と張生とは気の合う所があったので、互いに何事も打ち明け、年長の魏生は張生を弟のごとくいたわり、張生はまた魏生を兄のごとく敬って、その交情は僚友もうらやむほどであった。
秋の初めごろ魏生はそこから余り遠くない郷里にいる母が病にかかったという知らせを受け取って看護のためにこれに赴いた。
今は心を語るべき友なくひとりその房に淋しく書をひもときつつ朝夕魏生の上を思うていた張生はある夜燈もようやく暗く睡気を催したので牀に上って眠った。ふとした物音に張生が眼を開くと、魏生が扉を排して入ってくるのであった。やがて彼は音もなく牀に近づくと顔を寄せ張生の背をなでて言った。
「私は君に別れて国に帰ったが老病の母をみとるうち、はしなく時疫に感染して数日で死んだ。今の私は幽鬼で、朋友の情割き難く君に訣別を告げに来たのだ。」
年少の張生はふるえ上って言葉を出すことができないのを、鬼は慰めて、
「怖がらなくとも好い。私に君を害しようとする心があれば何でありのままを君に告げよう。落ち付いて私の頼みをきいてくれたまえ。」
とねんごろに言ったので張生も少し安心した。魏の幽鬼は重ねて言った。
「私には七十余りの老母とまだ若い妻がある。数斛の米があれば生を養うに足りるが私が死んではこれを見てやるものがない。君が私との交わりを忘れず私に代ってこれをめぐんでくれるならば私はその恩を忘れまい。また私はかねて書き著わした書物の草稿を一かさね書棚に入れて置いた。あれを梓に上して私の名を不朽にしてくれればこんな有難いことはない。なおもう一つは生前売筆商に銭数千の借りがあるのであれもかえしてもらいたい。」
張生はそのすべてを快く引き受けた。魏生は世にもうれしそうな顔をして立ち上り、
「君にみな承知してもらってこれに過ぎた満足はない。」