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TORENDIA

画集

本文約2,000字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

湖畔の落日や故郷の菜園、植物園の樹木など、日常の風景に重なる記憶の断片を綴る。著者自身の体験に基づき、失った者への追憶や、病床の傍らで過ごした日々、あるいは自らの内に宿る幼い日の幻影を、一冊の画集をめくるように描き出す。過ぎ去った時間と今なお心から離れない切実な情景を繊細な言葉で掬い取り、孤独な晩年を生きる精神の深淵や、そこにある哀切と祈りにも似た心情を静かに映し出す散文詩的な随筆集である。

原民喜

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🎧 画集 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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落日

湖のうへに、赤い秋の落日があつた。ほんとに、なごやかな一日であつたし、あんな、たつぷりした入日を見たことはないと、お前も云つた。いつまでも、あの日輪のすがたは残つた、紙の上に、心の上に、そして、お前が死んでからは、はつきりと夢の中に。

故園

土蔵の跡の石に囲まれた菜園、ここは一段と高く、とぼしい緑を風に晒してゐる。わたしはさまざまなことをおもひだす。薄暗い土蔵の小さな窓から仄かに見えてゐた杏の花。母と死別れた秋、蔵の白い壁をくつきりと照らしてゐた月。ふるさとの庭は年老いて愁も深かつたが……。ふしぎな朝の夢のなかでは、ずしんと崩壊した刹那の家のありさまが見えてくるのだ。

記憶

もしも一人の男がこの世から懸絶したところに、うら若い妻をつれて、そこで夢のやうな暮しをつづけたとしたら、男の魂のなかにたち還つてくるのは、恐らく幼ない日の記憶ばかりだらう。そして、その男の幼児のやうな暮しが、ひつそりとすぎ去つたとき、もう彼の妻はこの世にゐなかつたとしても、男の魂のなかに栖むのは妻の面影ばかりだらう。彼はまだ頑に呆然と待ち望んでゐる、満目蕭条たる己の晩年に、美しい記憶以上の記憶が甦つてくる奇蹟を。

植物園

はげしく揺れる樹の下で、少年の瞳は、雲の裂け目にあつた。かき曇る天をながれてゆく龍よ……。

その頃、太陽はギドレニイの絵さながらに、植物園の上を走つてゐた。忍冬、柊、木犀、そんなひつそりとした樹木が白い径に並んでゐて、その径を歩いてゐるとき、野薔薇の花蔭から幻の少女はこちらを覗いてゐた。樹の根には、しづかな埋葬の図があつた。色どり華やかな饗宴や、虔しい野らの祈りも、殆どすべての幻があそこにはあつたやうだ。それは一冊の画集のやうに今も懐しく私のなかに埋れてゐる。

黒すみれ

体のすみずみまで、もう過ぎ去つた、お前の病苦がじかに感じられて、睡れない一夜がすぎると、砂埃のたつ生温かい日がやつて来た。かういふ日である、何か考へながら、何も云はず、力ないまつげのかげに、熱い眼がみひらかれてゐたのは。

真昼

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