TRENDIA CLASSIC

初雪

近松秋江

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十二月の四日から此處に來てゐます。二日に秋聲氏と一緒に來る約束をしてゐたのですが、その日は私の持病の頭痛の發作が起つたので、秋聲氏はその最中に見舞かた/″\私の樣子を見に來てくれました。で、秋聲氏も一日延ばし、翌日三日は朝から大雨でしたが、氏はその雨の降る最中をこゝにやつて來たのでした。私はその又翌日四日の午後から東京を立つてきました。こゝは東京から來るのに電車の便の惡い所です。京濱電車を降りてからも二十町ばかりの田舍道を海岸まで車に乘らなければなりません。

東京から彼是れ二時間ばかり費して夕方ここに來てみると、秋聲氏のほかに上司小劍氏も來てゐました。氏は私達のはじめ來る日であつた二日に來たのださうです。これで三人が一つ旅館に偶然落ち合つたわけです。

秋聲小劍二氏は今まで一寸々々來た處ですが、私には初めての土地なのです、四邊はもうすつかり蘆荻の葉も褐色にうら枯れ、平濶な水田に小波が立つてゐるのも寒さうで、田圃の中につゞいてゐる悒せき田舍家の間を縫うて俥に搖られながらゆくと、海近い冬の風が遠くから強く吹きつけて來ました。この沿道のわびしい光景を見て、私は何とも云へない寂しい心地になつてゐました。やがて旅館に辿りつくと兩氏がゐるので大に心が引立つたわけです。東京の私達の知人は大抵知つてゐる土地のやうですが、現に故人の岩野泡鳴氏がよく來てゐた部屋はあそこだといつて、上司氏は私に指して教へました。

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