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TORENDIA

狂乱

本文約40,100字 ・ 読了時間 約81分

あらすじ(AIが作成しました)

仏壇に隠された男たちの写真を見つけた男は、女に対して言いようのない嫉妬を覚える。仕送りの金の使途や借金を巡る問い詰めに対し、女は拒絶的な態度をとり、やがて彼女は精神を病み姿を消す。音信不通となった女を追い、雪の降る山間の村へと向かう男の葛藤と心情を描く。

近松秋江

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一

二人の男の写真は仏壇の中から発見されたのである。それが、もう現世にいない人間であることは、ひとりでに分っているのだが、こうして、死んだ後までも彼らが永えに、彼女の胸に懐かしい思い出の影像となって留まっていると思えば、やっぱり、私は、捕捉することの出来ないような、変な嫉妬を感じずにはいられなかった。そして今、何人にも妨げられないで、彼女を自分ひとりの所有にして楽しんでいる限りなき歓びが、そのためにたちまち索然として、生命にも換えがたい大切な宝がつまらない物のような気持になった。しかし、また思いなおすと、彼らは、どのくらい女に思われていたか、私よりは深く思われていたか、そうでなかったか、わからぬにしても写真を仏壇に祀られるようになったのでは、結局この私よりもあの男たちは不幸な人間であった。そう思うと、死んだ人間が気の毒にもなった。

「そんなに隠さないで、ちょっと見せたっていいじゃないか。それは好きな人の写真だろう。どうせここへ祀ってあるくらいだから、死んだ人に相違ない。生きているころ世話になった人なら、祀って上げるのが当りまえだ」さばけた気持でそう言って、私は写真の面影をなお追うような心持になったが、女は瞬く間に、数の多い、どこかそこらの箪笥の小抽斗にそれを隠してしまった。

羽織袴を着けている三十恰好の男はくりくりした二重瞼の、鼻の下の髭を短く刈っていたりするのが、あとの四十年配の洋装の男よりも安っぽく思われた。そしてそれが、ずっと前から、ちょいちょい私の耳に入っていた、女と大分深い関係であったという男のように直感させた。ある日本画の画家で女と噂の高かった男が去年の夏ごろ死んだということを聞いていたので、それを思いうかべた。

「和服を着ていた人間は、何だか活動の弁士のようじゃないか」私は幾らか胸苦しい反感をもってそういうと、

「何でも構いまへん。あの人たちが生きてたら、私、もうとうにこんな商売してえしまへん」

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