TRENDIA CLASSIC

雲の裂け目

原民喜

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お前の幼な姿を見ることができた。それは僕がお前と死別れて郷里の方へ引あげる途中お前の生家に立寄った時だったが、昔の写真を見せてもらっているうちに、庭さきで撮られた一家族の写真があった。それにはお前の父親もいて、そのほとりに、五つか六つ位の幼ないお前は眼をきっぱりと前方に見ひらいていて、不思議に悲しいような美しいものの漲っている顔なのだ。こんな立派な思いつめたような幼な顔を僕はまだ知らなかった。そういえば、お前と死別れて間もない頃、お前の母はこんな話を僕にしてくれた。

「あの子は小さい時から、それは賢くて、まだはっきり昨日のように憶い出せるのは、あの家から小川の方を見ていると、小さな子供達があそこで遊んでいるのです。そうすると、そこへ学校の先生が通りかかりになると、ほかの子たちは知らぬ顔しているのに、あの子だけが路の真中へ出て来て、丁寧にお辞儀するのです。先生も可愛さにおもわず、あの子の頭を撫でておやりになるのでした。」

僕はそれから、自分の郷里に戻ると、久振りにこんどは僕の幼い姿を見ることができた。その写真も家族一同が庭さきに並んでいる姿なのだが、父親に手をひかれて気ばっているこの男の子は、もう自分の片割ともおもえないのであった。そのかわり久振りで見る亡父の姿はつくづくと珍しかった。ついこの間まで僕は父親というものを、ひどく遠いところに想像していた。ところが今度みる写真では、もう殆ど僕の手の届きそうなところに父親がいる。僕は土蔵の中から父の古い手紙を見つけると、警報の合間には憑かれたようにそれを読み耽った。

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