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TORENDIA

競馬の一日に就いて

本文約5,000字 ・ 読了時間 約10分

あらすじ(AIが作成しました)

競馬場へ赴く際の心構えと、馬券購入の戦略を論じる。午前中から無闇に馬券を買い進めると冷静な判断力を失うため、慎重に構えるべきだと説く。また、大穴が出た直後の心理的な動揺を避け、確実な本命を見極める重要性を指摘する。出走馬が多いレースは予想が難しくリスクが高いため見送るべきであること、最終レースでは周囲の心理に惑わされず冷静に本命を狙うことなど、千変万化するレースの中で精神を平静に保ち、合理的に判断することの難しさと肝要さを綴る。

菊池寛

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🎧 競馬の一日に就いて / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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午前中は慎しむこと

朝から競馬場へ駈けつける。直ぐに穴場へ飛びこむ。馬券を握ってスタンドへ出る。スタートが切られて、ゴールになって、しかし自分の買った馬は不幸惨敗を喫してしまう。それから曳馬でも見てまた直ぐ穴場へ入って馬券を買って……。

そんな具合に朝のうちから馬券に熱くなっている人を見ると、見ている方で却ってはらはらする。

競馬の番組の仕組と云うものは、関東と関西とでは多少違うが、どっちにしても特殊レースとか大レースとか云った類いのものは、殆んど午後の競走にしているのが普通である。それを朝のうちから二度も三度も馬券に滑ったりすれば、相当に気持が腐って、愈々その日じゅうでの興味あるレースとか大レースとかの時には、まともな勝馬の鑑定力さえ失ってしまう。そうなると益々気持が腐る。時には焦立たしいような気持にさえなる。

元来が競馬は楽しみに行くべきものだ。それが少しも楽しいものでなくなるなどは賞めた事ではない。

損してもいい一定の金額などをきめて行ったにしても、午後の競走の八競馬あたりには、もう最後の二十円しかなくなってしまったなんて事になれば、気を入れてみたい所なのにそうも行かない、味気ない心にならざるを得ない。

一度取られればその次こそはどうだろうと、またしても手の出したくなるのは人情だ。儲かれば儲かったで、こう云う日は大いに買うべしと云うので、番ごと番ごとに手を出したくなる。余程自制心を奮い起さないと心の平静は保ち難くなる。

それと云うのが午前中から慎しみもなく馬券に狂奔するからである。勝馬鑑定に、心の動揺や喧騒や迷いは大いなる妨げとなる。

そこでじっくり落着いて競馬を見て、いい穴の一つも取ろうと思えば、先ず午前中ぐらいは馬券は控え目に慎み深く、静かに構えているに越したことはない。そうすればその日の競馬場の空気にも馴れ、穴場の人気の形勢や、曳馬の気配などにもよく注意が行き届くようにもなる。

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