ゼラール中尉
本文約7,900字 ・ 読了時間 約16分
あらすじ(AIが作成しました)
リエージュのフレロン要塞に勤務するゼラール中尉は、華やかな容姿と快活な性格で知られるが、自身の意志を他人に押し付ける病的な性癖により、常に孤独であった。ある日、戦術に長けたガスコアン大尉が赴任し、二人は親密になるが、ゼラールは食事の注文から議論に至るまで大尉に自身の意見を執拗に強いる。欧州戦争の開戦とともに二人は国家の行く末を巡って激しく対立し、やがて要塞が壊滅する中で再会するが、死にゆく際もなお我執に囚われるゼラールに対し、大尉は憎しみと哀れみという複雑な感情を抱く。
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リエージュの町の人で、ゼラール中尉を知らぬ者はあるまい。中尉は、リエージュの周囲にいくつも並んでいる堡塁の一つである、フレロン要塞の砲兵士官である。スタイルの素晴らしく水際立った、立派な士官である。中尉の短く刈り込んだ髭や、いつも微笑を湛えている蒼い瞳や、一本一本手入れの届いている褐色の頭髪などは、誰にも快い感じを与えずにはいなかったのである。
リエージュにある、すべてのバーやカフェーの女は、調子のよいゼラール中尉を知っている。パリからの新しい流行歌を、リエージュでいちばん先に歌うのもこの中尉である。パリ下りだというイカモノの歌劇歌姫に、一番に花輪を贈るのもこの中尉である。その上に中尉は子供好きで、よくポケットの中に入れているボンボンを、道端で見かける子供たちにくれてやる。だからリエージュの街の子供たちの間にも、中尉の評判はすこぶるよいのである。従って、狭いリエージュの町では、中尉ゼラールといえば、誰でもよく知っている。毎晩、宵の九時頃にはきまって、ヴァルブノアの橋のたもとにあるカフェー・オートンヌで、ポンチ酒に酔って独唱をやっている中尉を、この辺の浮気な女たちは誰でも知っていた。
フレロンの要塞の内部でも、ゼラール中尉はそれほど評判の悪い方ではなかった。兵卒などははきはきした中尉の命令に快く従った。司令官の老大佐も、中尉のことを悪くは思っていなかった。ただゼラール中尉には、不思議なことに友人が一人もできなかったのである。