ポチの鳴き声でぼくは目がさめた。
ねむたくてたまらなかったから、うるさいなとその鳴き声をおこっているまもなく、真赤な火が目に映ったので、おどろいて両方の目をしっかり開いて見たら、戸だなの中じゅうが火になっているので、二度おどろいて飛び起きた。そうしたらぼくのそばに寝ているはずのおばあさまが何か黒い布のようなもので、夢中になって戸だなの火をたたいていた。なんだか知れないけれどもぼくはおばあさまの様子がこっけいにも見え、おそろしくも見えて、思わずその方に駆けよった。そうしたらおばあさまはだまったままでうるさそうにぼくをはらいのけておいてその布のようなものをめったやたらにふり回した。それがぼくの手にさわったらぐしょぐしょにぬれているのが知れた。
「おばあさま、どうしたの?」
と聞いてみた。おばあさまは戸だなの中の火の方ばかり見て答えようともしない。ぼくは火事じゃないかと思った。
ポチが戸の外で気ちがいのように鳴いている。
部屋の中は、障子も、壁も、床の間も、ちがいだなも、昼間のように明るくなっていた。おばあさまの影法師が大きくそれに映って、怪物か何かのように動いていた。ただおばあさまがぼくに一言も物をいわないのが変だった。急に唖になったのだろうか。そしていつものようにはかわいがってくれずに、ぼくが近寄ってもじゃま者あつかいにする。
これはどうしても大変だとぼくは思った。ぼくは夢中になっておばあさまにかじりつこうとした。そうしたらあんなに弱いおばあさまがだまったままで、いやというほどぼくをはらいのけたのでぼくはふすまのところまでけし飛ばされた。
火事なんだ。おばあさまが一人で消そうとしているんだ。それがわかるとおばあさま一人ではだめだと思ったから、ぼくはすぐ部屋を飛び出して、おとうさんとおかあさんとが寝ている離れの所へ行って、
「おとうさん……おかあさん……」
と思いきり大きな声を出した。
ぼくの部屋の外で鳴いていると思ったポチがいつのまにかそこに来ていて、きゃんきゃんとひどく鳴いていた。ぼくが大きな声を出すか出さないかに、おかあさんが寝巻きのままで飛び出して来た。
「どうしたというの?」