お末の死
本文約17,000字 ・ 読了時間 約35分
あらすじ(AIが作成しました)
父や兄を立て続けに亡くした理髪店「鶴床」の十四歳のお末は、不景気という言葉を口癖にしつつ、兄の鶴吉や弟妹と共に懸命に生きる。しかしある日、お末は突然の病に倒れ、激しい苦悶の中で昏睡に陥る。騒然とする家族に見守られながら、雪の降る季節、少女は短い生涯を閉じる。本作は、過酷な運命に翻弄されながらも気丈に振る舞うお末の姿と、その喪失に向き合う家族の悲哀を描く。
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一
お末はその頃誰から習ひ覚えたともなく、不景気と云ふ言葉を云ひ/\した。
「何しろ不景気だから、兄さんも困つてるんだよ。おまけに四月から九月までにお葬式を四つも出したんだもの」
お末は朋輩にこんな物の云ひ方をした。十四の小娘の云ひ草としては、小ましやくれて居るけれども、仮面に似た平べつたい、而して少し中のしやくれた顔を見ると、側で聞いて居る人は思はずほゝゑませられてしまつた。
お末には不景気と云ふ言葉の意味は、固よりはつきりは判つて居なかつた。唯その界隈では、誰でも顔さへ合はせれば、さう挨拶しあふので、お末にもそんな事を云ふのが時宜にかなつた事のやうに思ひなされて居たのだつた。尤もこの頃は、あのこつ/\と丹念に働く兄の鶴吉の顔にも快からぬ黒ずんだ影が浮んだ。それが晩飯の後までも取れずにこびりついて居る事があるし、流元で働く母がてつくひ(魚の名)のあらを側にどけたのを、黒にやるんだなと思つて居ると又考へ直したらしく、それを一緒に鍋に入れて煮てしまふのを見た事もあつた。さう云ふ時にお末は何だか淋しいやうな、後から追ひ迫るものでもあるやうな気持にはなつた。なつたけれども、それと不景気としつかり結び附ける程の痛ましさは、まだ持つて居よう筈がない。