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TORENDIA

鼻

本文約27,000字 ・ 読了時間 約54分

あらすじ(AIが作成しました)

ペテルブルグで理髪師イワン・ヤーコウレヴィッチは、朝食のパンの中に人間の鼻を発見する。その鼻は顧客である八等官コワリョーフ氏のものであった。一方、目覚めたコワリョーフ氏は自分の顔から鼻が消えていることに気づき、街へ探しに出る。鼻は五等官の姿となり、権威を振るいながら街を歩き回る。突如として起こったこの奇怪な事件と、鼻を失い困惑する男の騒動を描く。

ニコライ・ゴーゴリ

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一

三月の二十五日にペテルブルグで奇妙きてれつな事件がもちあがった。ウォズネセンスキイ通りに住んでいる理髪師のイワン・ヤーコウレヴィッチ(というだけでその苗字は不明で、看板にも、片頬に石鹸の泡を塗りつけた紳士の顔と、【鬱血もとります】という文句が記してあるだけで、それ以外には何も書いてない)、その理髪師のイワン・ヤーコウレヴィッチがかなり早く眼をさますと、焼きたてのパンの匂いがプーンと鼻に来た。寝台の上でちょっと半身をもたげると、相当年配の婦人で、コーヒーの大好きな自分の女房が、いま焼けたばかりのパンを竈から取り出しているのが眼についた。「きょうはねえ、プラスコーヴィヤ・オーシポヴナ、コーヒーは止しにするぜ。」と、イワン・ヤーコウレヴィッチが言った。「そのかわり、焼きたてのパンに葱をつけて食べたいね。」(つまり、イワン・ヤーコウレヴィッチにはコーヒーもパンも、両方とも欲しかったのであるが、一どきに双方を要求したところで、とても駄目なことがわかっていた、それというのも、プラスコーヴィヤ・オーシポヴナが、そうしたわがままをひどく好かなかったからである。)【ふん、お馬鹿さん、欲しけりゃパンを食べるがいいさ、こちらにはその方が有難いや。】と、細君は肚の中で考えた。【コーヒーが一人前あまるというもんだからね。】そしてパンを一つ食卓の上へ抛り出した。

イワン・ヤーコウレヴィッチは、礼儀のためにシャツの上へ燕尾服をひっかけると、食卓に向かって腰かけ、二つの葱の球に塩をふって用意をととのえ、やおらナイフを手にして、勿体らしい顔つきでパンを切りにかかった。真二つに切り割って中をのぞいてみると――驚いたことに、何か白っぽいものが目についた。イワン・ヤーコウレヴィッチは用心ぶかく、ちょっとナイフの先でほじくって、指でさわってみた。【固いぞ!】と、彼はひとりごちた。【いったい何だろう、これは?】

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