僕の帽子のお話
本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
おとうさんから買ってもらった大切な帽子を握りしめて眠る少年。しかし、ふと目を覚ますと帽子は姿を消していた。どうしても見つからない帽子を追いかけ夜の街を駆け巡るうちに、少年は不可思議な空間へ迷い込み、帽子と対話をしたり、空へ浮かぶ帽子を目撃したりと奇妙な体験をする。帽子を巡る夢と現実の境を彷徨い、少年が最後に目にした光景を描く物語。
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「僕の帽子はおとうさんが東京から買って来て下さったのです。ねだんは二円八十銭で、かっこうもいいし、らしゃも上等です。おとうさんが大切にしなければいけないと仰有いました。僕もその帽子が好きだから大切にしています。夜は寝る時にも手に持って寝ます」
綴り方の時にこういう作文を出したら、先生が皆んなにそれを読んで聞かせて、「寝る時にも手に持って寝ます。寝る時にも手に持って寝ます」と二度そのところを繰返してわはははとお笑いになりました。皆んなも、先生が大きな口を開いてお笑いになるのを見ると、一緒になって笑いました。僕もおかしくなって笑いました。そうしたら皆んながなおのこと笑いました。
その大切な帽子がなくなってしまったのですから僕は本当に困りました。いつもの通り「御機嫌よう」をして、本の包みを枕もとにおいて、帽子のぴかぴか光る庇をつまんで寝たことだけはちゃんと覚えているのですが、それがどこへか見えなくなったのです。
眼をさましたら本の包はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。僕は驚いて、半分寝床から起き上って、あっちこっちを見廻わしました。おとうさんもおかあさんも、何にも知らないように、僕のそばでよく寝ていらっしゃいます。僕はおかあさんを起そうかとちょっと思いましたが、おかあさんが「お前さんお寝ぼけね、ここにちゃあんとあるじゃありませんか」といいながら、わけなく見付けだしでもなさると、少し耻しいと思って、起すのをやめて、かいまきの袖をまくり上げたり、枕の近所を探して見たりしたけれども、やっぱりありません。よく探して見たら直ぐ出て来るだろうと初めの中は思って、それほど心配はしなかったけれども、いくらそこいらを探しても、どうしても出て来ようとはしないので、だんだん心配になって来て、しまいには喉が干からびるほど心配になってしまいました。寝床の裾の方もまくって見ました。もしや手に持ったままで帽子のありかを探しているのではないかと思って、両手を眼の前につき出して、手の平と手の甲と、指の間とをよく調べても見ました。ありません。僕は胸がどきどきして来ました。