ダマスカスの賢者
本文約6,100字 ・ 読了時間 約13分
あらすじ(AIが作成しました)
ダマスカスに住む怠け者のイドリスは、妻の勧めで墓場で祈る真似をして小銭を稼ぎ、次第に賢者と噂されるようになる。ある時、王の失くした指輪を偶然拾って届けたことで名声が高まり、さらに王の宝を盗んだ賊の捜索を命じられる。窮地に陥ったイドリスは、くるみを割る様子を監視していた賊の動揺を誘って宝の隠し場所を突き止める。その後も続く王からの重圧に耐えかねたイドリスは、浴室の崩落を予見したと偽って難を逃れ、魔術の鏡を失ったと告げることで、ようやく静かな暮らしを取り戻す。
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一
むかし、ダマスカスといふ町に、イドリスといふなまけものがゐました。貧乏なくせに、はたらくことがきらひなのですからたまりません。或とき、もういよ/\食べるものもなくなり、売りはらふものと言つたつて、ぼろッきれ一つさへないはめになりました。おかみさんは、
「これではもう二人でかつゑて死ぬばかりです。後生だから、どうぞ今日からお金をもうけに出て下さい。」と、泣いてたのみました。
「お金をもうけるつて、一たい、どうすればいゝんだい。わしは、これまで商ばいをしたこともないし、てんであてがつかないよ。」と、イドリスは、生あくびをしながらかう言つて、長いあごひげをしごいてゐました。
「では、ためしに私のいふとほりをしてごらんなさい。たゞお墓場へ出かけて、おまゐりの人が来るたんびに、口の中でおいのりをしてゐればいゝのです。さうすれば、女の人なぞは、きつとお金をくれます。これならあんたにも出来るでせう。」と、おかみさんは言ひました。
イドリスはいちんち考へこんでゐましたが、あくる朝になると、しぶ/\お墓場へ出ていきました。
いつて、おかみさんが言つたとほりにして見ますと、なるほど、お墓まゐりに来た女の人たちが少しづゝお金をくれていきます。イドリスは、これなら、わしにはもつて来いの仕事だと、ほゝ笑んで、それからは、まいにち出て来ては、もぐ/\とお祈りを上げるまねをしてゐました。
人々は、イドリスの、あごをうづめた長いひげや、たえず一しんにいのつてゐるすがたを見て、これは、とても信仰ぶかい、えらい人にちがひないと話し合ひました。しまひには、うはさに尾ひれがついて、あの人は、どんなことでもしつてゐるえらい賢者で、人の秘密でもすぐに見ぬいて言ひあてる、とてもふしぎな人だと、じぶんがためされたやうに言ひふらすものさへ出て来ました。
或とき、イドリスは、いつものやうに墓場へ出かけるとちう、町の中をとぼ/\歩いてゐますと靴のそこへくぎが出つぱつて来たと見えて、足の先がいたくてたまらなくなりました。それで或金細工師の店のまへにたちどまつて、その片方の靴をぬいで、中をのぞいて見ました。