嘘
本文約14,000字 ・ 読了時間 約28分
あらすじ(AIが作成しました)
病気で学校を休んでいた久助は、登校時に転入生の太郎左衛門と出会う。都会風の雰囲気を纏う転入生はクラスで浮いた存在となり、嘘をつくとの噂が立つ。ある時、遠方へ出かけた帰りに帰宅困難となった一行は、太郎左衛門の案内を信じるべきか葛藤する。窮地の中で彼を信じきれない仲間たちだったが、窮地を脱した瞬間に久助は他者との根源的な繋がりを悟り、不可解だった転入生を心から受け入れていく。
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一
久助君はおたふくかぜにかかって、五日間学校を休んだ。
六日めの朝、みんなに顔を見られるのははずかしいなと思いながら、学校にいくと、もう授業がはじまっていた。
教室では、案のじょう、みんながさあっとふりむいて久助君の方を見たので、久助君はあがってしまって、先生のところへ欠席届を出し、じぶんの席へ帰るまでに、つくえのわきにかけてある友だちのぼうしを、三つばかりはらい落としてしまった。さて、じぶんの席について読本をひらいた。
となりの加市君が、いま習っているのは十課だということを指でさして教えてくれた。もう十課まで進んだのか。久助君は、八課の「雨の養老」を習っていたとき、なんとなく左のほおが重いのに気がつき、その日から休んだのだった。
じぶんが休んで家でねていたときに、みんなは八課ののこりと九課を習ったんだなと思うと、久助君は、今ここにみんなといっしょに読本をひらいて、先生のお話を聞いていながら、みんなの気持ちとなじめないものを感じた。
そのとき、先生から指でさされて、前のほうのだれかが読本の朗読をはじめた。
「第十、稲むらの火。これは、ただごとでないと、つぶやきながら、五兵衛は家からきた……」
おや、へんだなと、久助君は思った。聞きなれない声だ。あんな声で読むのは、いったいだれだろう。そこで久助君は、本から顔をあげてみると、南のまどのそばの席で、ひとりの色の白い、セル地の美しい洋服をきた少年が、久助君の方に横顔を見せて朗読していた。久助君の知らない少年だ。