TRENDIA CLASSIC

党生活者

小林多喜二

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洗面所で手を洗っていると、丁度窓の下を第二工場の連中が帰りかけたとみえて、ゾロ/\と板草履や靴バキの音と一緒に声高な話声が続いていた。

「まだか?」

その時、後に須山が来ていて、言葉をかけた。彼は第二工場だった。私は石鹸だらけになった顔で振りかえって、心持眉をしかめた。――それは、前々から須山との約束で、工場から一緒に帰ることはお互避けていたからである。そんな事をすれば、他の人の眼につくし、万一のことがあった時には一人だけの犠牲では済まないからであった。ところが、須山は時々その約束を破った。そして、「やアあまり怒るなよ」そんなことを云って、人なつこく笑った。須山はどっちかと云えば調子の軽い、仲々愛嬌のある、憎めないたちの男だったので、私はその度に苦笑した。が、今は時期が時期だし、私は強つい顔を見せたのである。それに今日これから新しいメンバーを誘って、何処かの「しるこ屋」に寄る予定にもなっていた……。が、フト見ると、ひょウきんな何時もの須山の顔ではない。私はその時私たちのような仕事をしているものゝみが持っているあの「予感」を突嗟に感じて、――「あ直ぐだ」と云って、ザブ/\と顔を洗った。

相手にそれと分ったと思うと須山は急に調子を変えて、「キリンでゞも一杯やるか」と後から云った。が、それには一応何時もの須山らしい調子があるようで、しかし如何にも取ってつけた只ならぬさがあった。それが直接に分った。

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