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TORENDIA

母たち

本文約10,000字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

厳冬の十二月、社会運動に身を投じる息子が収監される中、取り残された母親たちは、警察の家宅捜索や厳しい現実に直面する。息子や娘たちが活動を続ける苦難の道のりに対し、親としての戸惑いや葛藤を抱きながらも、彼らの信念と向き合い続ける。本作は、プロレタリア運動に加担する若者たちとその家族が、弾圧という過酷な状況下で織りなす母と子の姿や、それぞれの覚悟を綴る。

小林多喜二

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弟が面会に行くとき、今度の事件のことをお前に知らせるようにと云ってやった。

差入のことや家のことや色々なことを云った後で、弟は片方の眼だけを何べんもパチ/\させながら、「故里の方はとても吹雪いているんだって。」と云った。するとお前は、「そうだろうな、十二月だもの。――こっちの冬はそれに比べると、故里の春先きのようなものだ。」と云ったそうだね。弟は困って、又何べんも片方の眼だけをパチ/\させて、「故里の方はとても嵐だって!」と繰りかえしたところが、お前が編笠をいじりながら、突然奇妙な顔をして、「お前片方の眼どうした? 神経痛にでもなったのか?」と云ったので、弟は吹き出すわけにも行かず、そうだとも云えず、とても困ったそうだ。――その手紙を弟から貰って、こっちでは皆涙を出して笑ったの。

ところが、本当に今年のこっちの冬というのは十何年振りかの厳寒で、金物の表にはキラ/\と霜が結晶して、手袋をはかないでつかむと、指の皮をむいてしまうし、朝起きてみると蒲団の息のかゝったところ一面が真白にガバ/\に凍えている、夜中に静かになると、突然ビリン、ビリンともののわれる音がする、家をすっかり閉め切って、ストーヴをドシ/\燃しても、暑いのはストーヴに向いている身体の前の方だけで、後半方は冷え冷えとするのだ。窓硝子は部厚に花模様が結晶して、外は少しも見えなくなった。外を歩くと、雪道が硝子の面よりも堅く平らに凍えて、ギュン/\と何かものでもこわれるような音をたてる……。所謂「十二月一日事件」の夜明頃などは、空気までそのまゝの形で凍えていたような「しばれ」だったよ。

あの「ガラ/\」の山崎のお母さんでさえ、引張られて行く自分の息子よりも、こんな日の朝まだ夜も明けないうちに、職務とは云え、(それも「敵方の」職務だが)やって来て、家宅捜索をするのに、すぐ指先がかじかんで、一寸やっては顎の下に入れて暖めているのを見るに見兼ねて、「え糞ッ!」という気になり、ストーヴをたきつけてやったと云っている。

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