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TORENDIA

若葉の雨

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

晩春の雨が持つ明るさと快活さを軸に、雨に誘われて現れる生き物たちの様子を綴る。ひき蛙、蟹、雨蛙、蝸牛が雨の中で見せる独特の仕草や性格を観察し、それぞれの生態や交流の様子を描写する。著者は、雨の降る自然の情景や、夜に雨音を聞く心地よさを通じて、晩春特有の情緒豊かな世界観を表現している。

薄田淳介

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🎧 若葉の雨 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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野も、山も、青葉若葉となりました。この頃は――とりわけて今年はよく雨が降るやうです。雨といつてもこの頃のは、草木の新芽を濡らす春さきの雨や、もつと遅れて来る梅雨季の雨に比べて、また変つた味ひがあります。春さきの雨はつめたい。また梅雨季の雨は憂鬱にすぎますが、その間にはさまれた晩春の雨は、明るさと、快活さと、また暖かさとに充ち溢れて、銀のやうにかがやいてゐます。春さきの雨は無言のまま濡れかかりますが、この頃の雨はひそひそと声を立てて降つて来ます。その声は空の霊と草木の精とのささやきで、肌ざはりの柔かさ、溜息のかぐはしさも思ひやられるやうな、静かな親みをもつてゐます。時々風が横さまに吹きつけると、草木の葉といふ葉は、雨のしづくが首筋を伝つて腋の下や、乳のあたりに滑り込んだやうに、冷たさとくすぐつたさとで、たまらなささうに身を揺ぶつて笑ひくづれてゐるらしく見えるのも、この頃の雨でないと味はれない快活さです。

この快活さと明るさとにそそのかされて、ひき蛙はのつそりと草葉のかげから這ひ出して来ます。どうかした拍子に雨だれが顔の上に落ちかかると、ひき蛙はちやうど酔ひどれが口の端の酒の泡を気にするやうに、不器用な手つきでそつと鼻さきを撫でまはしてゐます。そして時々立ちとまつて、昔馴染の俳人一茶が、旅姿のままでぐしよ濡れになつてゐはしないかと気づかふやうに、きよろきよろとあたりを見まはしてゐます。ひき蛙よ。お前が尋ねてゐるらしい一茶は、いい俳人だつたが、彼の魂は長年の悲みと苦みとのためにねぢけてゐる。明るいこの頃の雨と一しよに濡れるには、ふさはしからぬ友達の一人です。お前にはもつといい友達がそこに出て来ました。

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