TRENDIA CLASSIC

寒の夜晴れ

大阪圭吉

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また雪の季節がやって来た。雪というと、すぐに私は、可哀そうな浅見三四郎のことを思い出す。

その頃私は、ずっと北の国の或る町の――仮にH市と呼んでおこう――そのH市の県立女学校で、平凡な国語の教師を勤めていた。浅見三四郎というのは、同じ女学校の英語の教師で、その頃の私の一番親しい友人でもあった。

三四郎の実家は、東京にあった。かなり裕福な商家であったが、次男坊で肌合の変っていた三四郎は、W大学の英文科を卒えると、教師になって軽々諸国行脚の途についた。なんでも文学を志したというのだが、いまだ志成らずして、私とH市で落合った頃には、もう三十面をかかえて八つになる子供のいい父親になっていた。少しばかり気の短い男だったが、それだけに腹のないひどく人の好い男で、私は直ぐに親しくなって行った。もっとも、私が一番親しくしていたわけではない。誰れも彼も、三四郎を親しみ、三四郎に多かれ少かれ好意を持たない人はなかった。実家が裕福なためもあったろう、職員間でもなにかと心が寛く、交際も凡て明るくて、変に理窟めいたところが少しもなかった。どうして、文学などという暗い道の辿れる男ではない。私はわけもなく親しくなって行きながら、すぐにそのことに気づいてしまった。

わけても微笑ましいのは、家庭に於ける三四郎だった。どんなに彼が、美しい妻と一粒種の子供を愛していたか、それは女生徒達の、弥次気分も通り越した尊敬と羨望に現わされていた。事実私は、どの教師でも必らずつけられているニックネームを、三四郎に関する限り耳にした事がなかった。それはまことに不思議なことでさえあった。

いまから思うと、すべての禍根は、こうした三四郎の円満な性格の中に、既に深く根を下していたのかも知れない。

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