うた時計
本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
二月の野中、少年・廉は町へ向かう道中で、同じ方向へ歩く男と出会う。男は所持していたうた時計を鳴らして少年に聞かせ、二人は交流する。町へ向かう男は、廉に二つの時計を託し、薬屋へ届けるよう頼んで立ち去る。その後、自転車で追ってきた薬屋の主人は、男が十数年ぶりに帰省し再び去った息子であると明かす。少年は男が言っていた言葉を伝えると、老人は時計の調べに耳を傾け、涙を浮かべる。
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二月のある日、野中のさびしい道を、十二、三の少年と、皮のかばんをかかえた三十四、五の男の人とが、同じ方へ歩いていった。
風がすこしもないあたたかい日で、もう霜がとけて道はぬれていた。
かれ草にかげをおとして遊んでいるからすが、ふたりのすがたにおどろいて、土手をむこうにこえるとき、黒い背中が、きらりと日の光を反射するのであった。
「坊、ひとりでどこへいくんだ」
男の人が少年に話しかけた。
少年はポケットにつっこんでいた手を、そのまま二、三ど、前後にゆすり、人なつこいえみをうかべた。
「町だよ」
これはへんにはずかしがったり、いやに人をおそれたりしない、すなおな子どもだなと、男の人は思ったようだった。
そこでふたりは、話しはじめた。
「坊、なんて名だ」
「れんていうんだ」
「れん? れん平か」
「ううん」
と、少年は首を横にふった。
「じゃ、れん一か」
「そうじゃないよ、おじさん。ただね、れんていうのさ」
「ふうん。どういう字書くんだ。連絡の連か」
「ちがう。点をうって、一を書いて、ノを書いて、ふたつ点をうって……」
「むずかしいな。おじさんは、あまりむずかしい字は知らんよ」
少年はそこで、地べたに木ぎれで「廉」と大きく書いてみせた。
「ふうん、むずかしい字だな、やっぱり」
ふたりはまた歩きだした。
「これね、おじさん、清廉潔白の廉て字だよ」
「なんだい、そのセイレンケッパクてのは」
「清廉潔白というのは、なんにも悪いことをしないので、神様の前へ出ても、巡査につかまっても、平気だということだよ」
「ふうん、巡査につかまってもな」
そういって、男の人はにやりとわらった。
「おじさんのオーバーのポケット、大きいね」
「うん、そりゃ、おとなのオーバーは大きいから、ポケットも大きいさ」
「あったかい?」
「ポケットの中かい? そりゃあ、あったかいよ。ぽこぽこだよ。こたつがはいってるようなんだ」
「ぼく、手を入れてもいい」
「へんなことをいう小僧だな」
男の人はわらいだした。でも、こういう少年がいるものだ。近づきになると、相手のからだにさわったり、ポケットに手を入れたりしないと、承知ができぬという、ふうがわりな、人なつこい少年が。