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TORENDIA

雀

本文約6,600字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

津軽の金木町で再会した幼馴染の慶四郎は、戦地から帰還し、伊東温泉での療養生活を振り返る。兵隊生活の記憶を語る中で、慶四郎はかつて療養所の近くの娘・ツネを射的場の事故で傷つけた出来事を告白する。その時、娘の父が見せた怒りに満ちた眼差しを通し、人間を傷つけることへの嫌悪と戦争の悪質さを強く自覚する。その後、慶四郎の家を訪れた語り手は、慶四郎の妻の姿にツネの面影を重ね、当時の記憶が現在にも影を落とす不思議な錯覚に襲われる。

太宰治

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この津軽へ来たのは、八月。それから、ひとつきほど経って、私は津軽のこの金木町から津軽鉄道で一時間ちかくかかって行き着ける五所川原という町に、酒と煙草を買いに出かけた。キンシを三十本ばかりと、清酒を一升、やっと見つけて、私はまた金木行の軽便鉄道に乗った。

「や、修治。」と私の幼名を呼ぶ者がある。

「や、慶四郎。」と私も答えた。

加藤慶四郎君は白衣である。胸に傷痍軍人の徽章をつけている。もうそれだけで私には万事が察せられた。

「御苦労様だったな。」私のこんな時の挨拶は甚だまずい。しどろもどろになるのである。

「君は?」

「戦災というやつだ。念いりに二度だ。」

「そう。」

向うも赤面し、私も赤面し、まごついて、それから、とにかく握手した。

慶四郎君は、私と小学校が同クラスであった。相撲がクラスで二ばん目に強かった。一ばん強かったのは、忠五郎であった。時々、一位決定戦を挑み、クラスの者たちは手に汗を握って観戦するという事になるのだが、どうしてもやはり忠五郎に負ける。慶四郎君は起き上り、チョッと言って片足で床板をとんと踏む。それが如何にも残念そうに見えた。その動作が二十幾年後の今になっても私には忘れられず、慶四郎君と言えばその動作がすぐ胸中に浮んで来て、何だか慶四郎君を好きになるのである。慶四郎君は小学校を卒業してから弘前の中学校に行き、私は青森の中学校にはいった。それから慶四郎君は、東京のK大学にはいり、私も東京へ出たが、あまり逢う事は無かった。いちど銀座で逢い、その時私はちっともお金を持っていなかったので、慶四郎君の御ちそうになってしまった。それきり逢わない。何でも、K大学を卒業してから東京の中学校の教師をしていたとかいう事を風の便りに聞いた。

「しかし、まあ、よかったね。」と私は、少しも要領を得ない事を言った。何と言ったらいいか、わからないのである。

「うん、よかった。」と慶四郎君は、平気で応じて、「もう少しで死ぬとこでしたよ。」

「そうだろう、そうだろう。」と私は少し狼狽気味でうなずき、ポケットかられいの買って来たばかりの煙草をとり出し、慶四郎君にすすめた。

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