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TORENDIA

竜舌蘭

本文約4,500字 ・ 読了時間 約9分

あらすじ(AIが作成しました)

幼い自分は、雨の降るある日、親戚の家で開かれた盛大な初節句の祝宴に参列する。騒がしい宴の喧騒から逃れ、蔵で本を読み耽ったり池を眺めたりして過ごす中で、薄暗い中庭の岩組みに置かれた竜舌蘭の鉢や、同じく池に臨む中二階に佇む芸者の姿が心に深く刻まれる。夜が更けて独り布団に入った自分は、母親と帰路につけなかった心細さと、周囲の華やかさゆえに際立つ孤独に涙を流す。後年、この古い記憶と鉢の光景を回想する。

寺田寅彦

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🎧 竜舌蘭 / 朗読音声: VOICEVOX:春日部つむぎ

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一日じめじめと、人の心を腐らせた霧雨もやんだようで、静かな宵闇の重く湿った空に、どこかの汽笛が長い波線を引く。さっきまで「青葉茂れる桜井の」と繰り返していた隣のオルガンがやむと、まもなく門の鈴が鳴って軒の葉桜のしずくが風のないのにばらばらと落ちる。「初雷様だ、あすはお天気だよ」と勝手のほうでばあさんがひとり言を言う。地の底空の果てから聞こえて来るような重々しい響きが腹にこたえて、昼間読んだ悲惨な小説や、隣の「青葉しげれる桜井の」やらが、今さらに胸をかき乱す。こんな時にはいつもするように、机の上にひじを突いて、頭をおさえて、何もない壁を見つめて、あった昔、ない先の夢幻の影を追う。なんだか思い出そうとしても、思い出せぬ事があってうっとりしていると、雷の音が今度はやや近く聞こえて、ふっと思い出すと共に、ありあり目の前に浮かんだのは、雨にぬれた竜舌蘭の鉢である。

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