TRENDIA CLASSIC

寺田寅彦

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始めてこの浜へ来たのは春も山吹の花が垣根に散る夕であった。浜へ汽船が着いても宿引きの人は来ぬ。独り荷物をかついで魚臭い漁師町を通り抜け、教わった通り防波堤に沿うて二町ばかりの宿の裏門を、やっとくぐった時、朧の門脇に捨てた貝殻に、この山吹が乱れていた。翌朝見ると、山吹の垣の後ろは桑畑で、中に木蓮が二、三株美しく咲いていた。それも散って葉が茂って夏が来た。

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