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TORENDIA

時事雑感

本文約9,500字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

紡績会社の労働争議中、若い男が工場の大煙突に登り百数十時間居座り続けるという出来事が起こる。この独創的かつ耐久力を要する所業は世間の耳目を集めた。この随筆では、この出来事を端緒に、日本における独創力と耐久力の軽視、学術研究の現状を論じる。また、過去の天災の記憶や気象の週期、地震に対する防備が疎かになっている現状について触れ、将来の大地震に対する危機意識の欠如と日本社会のあり方を考察する。

寺田寅彦

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煙突男

ある紡績会社の労働争議に、若い肺病の男が工場の大煙突の頂上に登って赤旗を翻し演説をしたのみならず、頂上に百何十時間居すわってなんと言ってもおりなかった。だんだん見物人が多くなって、わざわざ遠方から汽車で見物に来る人さえできたので、おしまいにはそれを相手の屋台店が出たりした。これに関する新聞記事はおりからの陸軍大演習のそれと相交錯して天下の耳目をそばだたせた。宗教も道徳も哲学も科学も法律もみんなただ茫然と口をあいてこの煙突の空の一個の人影をながめるのであった。

争議が解決して煙突男が再び地上におりた翌日の朝私はいつも行くある研究所へ行った。ちょうど若い軍人たちがおおぜいで見学に来ていたが、四階屋上の露台から下を見おろしている同僚の一群を下の連中が見上げながら大声で何かからかっている。「おうい、もう争議は解決したぞ、おりろおりろ」というのが聞こえた。その後ある大学の運動会では余興の作りものの中にやはりこの煙突男のおどけた人形が喝采を博した。

こうしてこの肺病の一労働青年は日本じゅうの人気男となり、その波動はまたおそらく世界じゅうの新聞に伝わったのであろう。

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