本文へ移動
TORENDIA

言いたい事と言わねばならない事と

本文約1,600字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

言いたいことを言う権利の行使ではなく、国民の義務として言わねばならないことを発言する姿勢について綴る。軍部や政府への批判を公言し、生活権の剥奪や起訴といった犠牲を伴いながらも、真の愛国者および人類としてなすべき義務の履行を説く。私的な欲求に基づく言いたいことと、国家や社会の将来を見据えて発する義務である言わねばならないこととの厳格な区別を論じる。

桐生悠々

速度
🎧 言いたい事と言わねばならない事と / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう

💰 この本を応援する(投げ銭)

1 / 2

人動もすれば、私を以て、言いたいことを言うから、結局、幸福だとする。だが、私は、この場合、言いたい事と、言わねばならない事とを区別しなければならないと思う。

私は言いたいことを言っているのではない。徒に言いたいことを言って、快を貪っているのではない。言わねばならないことを、国民として、特に、この非常時に際して、しかも国家の将来に対して、真正なる愛国者の一人として、同時に人類として言わねばならないことを言っているのだ。

言いたいことを、出放題に言っていれば、愉快に相違ない。だが、言わねばならないことを言うのは、愉快ではなくて、苦痛である。何ぜなら、言いたいことを言うのは、権利の行使であるに反して、言わねばならないことを言うのは、義務の履行だからである。尤も義務を履行したという自意識は愉快であるに相違ないが、この愉快は消極的の愉快であって、普通の愉快さではない。

しかも、この義務の履行は、多くの場合、犠牲を伴う。少くとも、損害を招く。現に私は防空演習について言わねばならないことを言って、軍部のために、私の生活権を奪われた。私はまた、往年新愛知新聞に拠って、いうところの檜山事件に関して、言わねばならないことを言ったために、司法当局から幾度となく起訴されて、体刑をまで論告された。これは決して愉快ではなくて、苦痛だ。少くとも不快だった。

私が防空演習について、言わねばならないことを言ったという証拠は、海軍軍人が、これを裏書している。海軍軍人は、その当時に於てすら、地方の講演会、現に長野県の或地方の講演会に於て私と同様の意見を発表している。何ぜなら、陸軍の防空演習は、海軍の飛行機を無視しているからだ。敵の飛行機をして帝都の上空に出現せしむるのは、海軍の飛行機が無力なることを示唆するものだからである。

桐生悠々の他の作品

同じジャンルの朗読つきの本