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TORENDIA

鉛をかじる虫

本文約2,500字 ・ 読了時間 約6分

あらすじ(AIが作成しました)

鉄道大臣官房研究所で見聞した、地下電線の被覆鉛管をかじり穴を明ける「鉛をかじる虫」の生態を軸に、その不可解な習性を考察する。鉛を食し鉛の糞を排泄する虫の生理的現象に対し、著者は自らの学業で得た膨大な知識の多くを忘却する過程を重ね合わせる。能率や無駄の概念を紐解きながら、人間の知的な営みや活動における「無駄」の存在意義と、効率性への問いを論じる随筆である。

寺田寅彦

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🎧 鉛をかじる虫 / 朗読音声: VOICEVOX:もち子さん

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近頃鉄道大臣官房研究所を見学する機会を得て、始めてこの大きなインスチチュートの内部の様子をかなり詳しく知ることが出来た。名前だけ聞いたところではたいそういかめしいお役所のような気がして、書類の山の中で事務や手続きや規則の研究をしている所かと想像していたのであるが、事実はまるで反対で、それは立派な応用科学研究所であって多数の実験室にはそれぞれ有為な学者が居て色々有益で興味のある研究をしているのであった。

色々見せてもらったものの中で面白かったものの一つは「鉛をかじる虫」であった。低度の顕微鏡でのぞいてみると、ちょっと穀象のような恰好をした鉛のような鼠色の昆虫である。これが地下電線の被覆鉛管をかじって穴を明けるので、そこから湿気が侵入して絶縁が悪くなり送電の故障を起こすのだそうである。実に不都合な虫であるが、怒ってみたところで相手が虫では仕方がない。怒る代りに研究をして防禦法を講じる外はないであろう。

虫の口から何か特殊な液体でもだして鉛を化学的に侵蝕するのかと思ったが、そうでなくて、やはり本当に「かじる」のだそうである。その証拠にはその虫の糞がやはり「鉛の糞」だという。なるほど顕微鏡下にある糞の標本を見るとやはり立派な鉛色をしているようである。

これらの説明を聞いた時に不思議に思われたのは、鉛を食って鉛の糞をしたのでは、いわば米を食って米の糞をするようなもので、いったいそれがこの虫のために何の足しになるかということである。米の中から栄養分を摂取して残余の不用なものを「米とは異なる糞」にして排泄するのならば意味は分かるが、この虫の場合は全く諒解に苦しむというより外はない。

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