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TORENDIA

「禰宜様宮田」創作メモ

本文約6,700字 ・ 読了時間 約14分

あらすじ(AIが作成しました)

桑野村の風景や心境を綴る随筆。作者は春の芽吹きと厳しい南風が交錯する村で、読書や執筆に励みつつ、自分自身の内に潜む感情や将来の恋への予感と向き合う。また、自身の内面的な苦悩や生長の過程を冷静に凝視する。後半では、百二十一歳という高齢の老人との対面や、信夫山に伝わる伝説、架空索道の運営状況など、旅先で耳にした話題や見聞を織り交ぜながら、自己の思索と周囲の世界を鮮明に記録する。

宮本百合子

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🎧 「禰宜様宮田」創作メモ / 朗読音声: VOICEVOX:青山龍星

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桑野村にて

○日はうららかに輝いて居る。けれども、南風が激しく吹くので、耕地のかなたから、大波のように、樹木の頭がうねり渡った。何処かで障子のやぶれがビュー、ビュービューと、高く低くリズムをつけて鳴って居る。祖母が、因果なような音を立てて居ると云ったのが、いかにも適切な程、その音は、弱々しく陰気でありながら、絶え間ない執ねさで鳴って居る。

○地面と云う地面は到るところ、ゆるんでぬかって居る。

黄色な草の間を縫うて、まがりくねった里道には、馬のひづめのあとに轍が、一寸も喰い込んで、滅茶滅茶について居る。歩くのにも足駄でなければ、足の上の方までよごれる。

けれども村の者達は、此の困難な往還に対して、何の不服も感じないのみか、却って、一種のよろこびさえも感じて居る。春の暖さが、地面の底から、しんしんとわき出して、永い冬の間中、いてついて、下駄の歯の折れそうになって居た土を、やわらげて行くからなのである。

子供達は、背中まで、大きな はね を上げながら、いつともなし足袋をぬいだ足を、思うさまよごしては、気違いのようにはねくり廻って居る。

○池の水はすっかり増して、冬の間中は、かさかさにむき出て居た処にまで、かなり深く水がたたえられて居る。日光が金粉をまいたように水面に踊って、なだらかな浪が、彼方の岸から此方の岸へと、サヤサヤ、サヤとよせて来るごとに、浅瀬の水草が、しずかにそよいで居る。

その池に落ち込む小川も、又一年中、一番好い勢でながれて居る。はるかな西のかん木のしげみの間から、現われて来る流れは、小さな泡沫を沢山浮べながら、さも愉快そうにゆれゆれて流れ、池へ入る口では、せばめられた水嵩が、周囲の草や石にあたって、心のすがすがするような高い、透明な響を起す。その傍に、小さな小屋を立ててすんで居る鯉屋の裏には、鯉にやるさなぎのほしたのから、短かい陽炎が立ち、その周囲の湿地には、粗い苔が生えて、群れた蠅の子が、目にもとまらない程小さい体で、敏捷に彼方此方とび廻って居る。

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