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TORENDIA

はるかな道

本文約1,500字 ・ 読了時間 約4分

あらすじ(AIが作成しました)

机上に置かれた窪川稲子の長編小説『くれない』と『キュリー夫人伝』を対比させ、女性の生き方について論じる評論。日本の社会環境下で、妻・母・作家として合理的に生きようと葛藤する主人公明子の苦悩を描いた小説の意義と限界を考察する。時代や国境を超えて人類の進歩に貢献する女性のあり方を描き出し、仕事と家庭の両立や夫婦間の心理など、読者に多くの普遍的な問題を提示する作品の真摯な熱意を評価する。

宮本百合子

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🎧 はるかな道 / 朗読音声: VOICEVOX:九州そら

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今わたしの机の上に二冊の本が置かれている。一冊は最近中央公論社から出版された窪川稲子の初めての長篇小説と云うべき「くれない」である。もう一冊は、これもごく近く白水社から出た「キュリー夫人伝」である。この二冊の本は、それぞれに違ったものである。左方は名の示すように、世界の科学に大なる貢献をした婦人科学者の伝記であるし、一方は日本の婦人作家によって書かれた一つの小説である。だが、この種類のちがう二冊の本は、その相違にもかかわらず、今日の生活の下に現れて何と強力に我々の心に呼びかけて来ることだろう。二十世紀の社会というものが、それぞれ国土の違った、環境と習俗と専門の違った、従って生涯の過程も異っている女性の生活記録にも猶貫く一すじの血脈を感じさせるのは、感動的な事実である。私たちには次のことが実にはっきりと感じられる。

若しキュリー夫人が「くれない」をよみ、その作者を知ったならば、彼女はきっと、その汚れない女性の心で、この作者のひたむきな心と苦悩とを理解したであろうと。同じ暦の下に歴史が展開されていても、海の彼方、海の此方では、歴史の内包している生活の諸条件が、特に社会における女の現実の立場について、非常にちがっている。広い客観の見とおし、そして人間の発展と進歩への道に立って「くれない」を見れば、女主人公、明子の苦悩と努力とは、とりも直さず、環境のおくれている多くの条件が重荷となって、合理的に、明るく輝しく生き伸びようとする意欲の桎梏となることから生じている。妻として母としてその上に更に作家として歴史の進歩に貢献して行こうと欲する現代の社会性ひろい、情感ゆたかに努力的な婦人が、日本の時代の空気の中で、周囲の重り、自身の内部に在る重り、愛する良人の内にある重りと、どのように交錯し合い、痛みつつ、まともに成長しようと健気にたたかっているか、その記録が「くれない」であると思う。

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