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TORENDIA

里の春、山の春

本文約730字 ・ 読了時間 約2分

あらすじ(AIが作成しました)

春を知らない山の仔鹿は、ある日、山の下から聞こえる鐘の音に誘われて野原へ降りる。そこには満開の桜と、花を角に結んでくれる優しい老人がいた。仔鹿は、春とはどのようなものかを知り、山へ戻る。その後、鹿の住む山にも季節が巡り、花が咲き始めるまでを描く。本作は、春をまだ知らない幼い仔鹿の冒険を通じ、野原と山それぞれの春の訪れを情緒的に綴る。

新美南吉

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🎧 里の春、山の春 / 朗読音声: VOICEVOX:波音リツ

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野原にはもう春がきていました。

桜がさき、小鳥はないておりました。

けれども、山にはまだ春はきていませんでした。

山のいただきには、雪も白くのこっていました。

山のおくには、おやこの鹿がすんでいました。

坊やの鹿は、生まれてまだ一年にならないので、春とはどんなものか知りませんでした。

「お父ちゃん、春ってどんなもの。」

「春には花がさくのさ。」

「お母ちゃん、花ってどんなもの。」

「花ってね、きれいなものよ。」

「ふウん。」

けれど、坊やの鹿は、花をみたこともないので、花とはどんなものだか、春とはどんなものだか、よくわかりませんでした。

ある日、坊やの鹿はひとりで山のなかを遊んで歩きまわりました。

すると、とおくのほうから、

「ぼオん。」

とやわらかな音が聞こえてきました。

「なんの音だろう。」

するとまた、

「ぼオん。」

坊やの鹿は、ぴんと耳をたててきいていました。やがて、その音にさそわれて、どんどん山をおりてゆきました。

山の下には野原がひろがっていました。野原には桜の花がさいていて、よいかおりがしていました。

いっぽんの桜の木の根かたに、やさしいおじいさんがいました。

仔鹿をみるとおじいさんは、桜をひとえだ折って、その小さい角にむすびつけてやりました。

「さア、かんざしをあげたから、日のくれないうちに山へおかえり。」

仔鹿はよろこんで山にかえりました。

坊やの鹿からはなしをきくと、お父さん鹿とお母さん鹿は口をそろえて、

「ぼオんという音はお寺のかねだよ。」

「おまえの角についているのが花だよ。」

「その花がいっぱいさいていて、きもちのよいにおいのしていたところが、春だったのさ。」

とおしえてやりました。

それからしばらくすると、山のおくへも春がやってきて、いろんな花はさきはじめました。

完

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