TRENDIA CLASSIC

怪談覚帳

田中貢太郎

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四手網

俳優の木下がまだ田舎まわりの馬の脚であった時、夜、利根川の土手を歩いていると、むこうの方の川縁に時とすると黒い大きな物があがって、それが星あかりに怪しく見える。ふるえふるえ往って見ると、それは四手網をあげているので、

「ああ、よかった」

と云うと、今度は四手網の男が驚いて、

「わっ」

と云って水の中へ落ちた。

天狗

先輩高木孟旦翁の話。高木翁が土佐の本山と云う山奥の村で小学教師をしている時、己の家へ帰ったことがあったが、其の途中にかし山と云う山があって、其の峠には天狗が出るという噂があった。高木翁が其のかし山の峠にかかった時、木の間に音がして、五六尺もある怪物がばさばさとやって来て、それが天窓にさわった。これはてっきり噂の天狗だろうと思って、土の上につっ伏して顫えたが、やっと起きて見ると、もう怪物の姿は見えなかった。高木翁は安心して山をおり、下の茶店でうどんを喫いながら、

「今、天狗にあった」と云うと、茶店の老婆は、

「それは、もまだよ」と云って笑った。

荒倉の狸

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