白い花赤い茎
本文約5,600字 ・ 読了時間 約12分
あらすじ(AIが作成しました)
高崎の観音山で餅搗きを手伝い、夜道を帰る途中で母が鬼婆と遭遇する。母に化けて家に入り込んだ鬼婆は、留守番をする子供たちを襲う。異変を察した姉弟は恐怖の中で脱出を試み、追いつめられた末に神へ助けを求める。二人が鎖で引き上げられる一方、追いすがった鬼婆は鎖が切れて墜落する。その際に流れた鬼婆の血が、周囲に咲く蕎麦の花の茎を赤く染め上げ、悲劇的な物語の終わりを告げる。
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何時の比のことであったか[#「あったか」は底本では「あつたか」]、高崎の観音山の麓に三人の小供を持った寡婦が住んでいた。それはある歳の暮であった。山の前の親戚の家に餅搗があって、其の手伝いに頼まれたので、小供を留守居にして置いて、朝早くから出かけることになった。
小供と云うのは、十三歳になる女の子と、八歳になる男の子と、それから五歳になる女の子であった。寡婦は家を出る時総領女に云った。
「お土産にお餅を貰って来るから、好く留守番をしといでよ」
「お母さん、自家のことは好いが、彼の山には鬼婆が出ると云いますから、日が暮れたなら、泊って来るが宜しゅうございますよ」と、総領女が云った。
「そうとも、そうとも、鬼婆が恐いから、つい日が暮れたら泊ってくるが、なるだけなら夕方に帰って来るよ」
寡婦はそれから男の子と末の子の頭を撫でながら云った。
「姉さんの云うことを好く聞いてたら、どっさりお餅を貰って来る、好く姉さんの云うことを聞いといでよ」
そして、寡婦は親戚の家へ往って、せっせと餅搗を手伝ったが、思うようにはかどらなかったために、やっと終って帰り準備をしていると日が暮れた。親戚の者は危険いからと云って止めたが、留守のことが心配になるうえに、小供が土産の餅を待っているので、それを悦ばしたいと思って、むりから帰りかけた。
夕月の光が雲の間から漏れていた。昼でさえあまり人の通らない観音山は、迷い易い小径しかついていないので、それに迷わないようにと、今日通って来たと思われる落葉の踏みひしがれたような路を、月の光に透して歩いた。
三町ばかりものぼったところで、随いて来た小径が尽きて、黄葉した雑木の茂りに突き当った。寡婦の心は周章てて来た。彼女は五六歩引返して、別の小径らしい物を見つけて、右の方に曲って[#「曲って」は底本では「曲つて」]往ったが、少し登るとまた木立に突き当った。彼女はますます周章てて後に引返したが、返している中に違った処に足を踏み入れていた。