闇と寂寞
本文約4,100字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
盲目の弟と唖の弟、そして姉の三人は、寄り添いながら乞食をして生きていた。ある晩、姉が亡くなり二人は棺の前で通夜を行う。夜更け、棺の中から何かを叩く音や姉の声を聞いた盲目の弟は、パニックに陥り、弟を叩き起こそうとする。しかし、暗闇の中で恐怖に駆られた唖の弟と盲目の弟は、互いを正体不明の化け物と誤解し、死闘を繰り広げていく。姉の死という悲劇を軸に、極限状態に追い込まれた兄弟の狂気を描く。
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彼等は三人とも老ぼれ、衰えて、見るも惨めな有様であった。
女は二本の撞木杖にすがって、やっとのことで歩いていた。一人の男は、両手を前へ突きだして、指をひろげて、眼は堅くつぶっていた。盲目なのだ。もう一人の男は、頑固な相好で顔をうつむけ、身内の方々に苦しいところでもあるらしく、不安な眼つきをして、いつも黙りこんで二人のあとにとぼとぼとくっついていた。これは唖なのだ。
噂によれば、撞木杖の女は姉で、盲と唖はその弟で、大変に仲のいい姉弟だそうな。この姉弟は何処へ行くのにも必ず三人一緒だった。
彼等は同じ乞食でも、白昼に教会堂の入口に出しゃばって、否応なしに参詣人の施しを狙うような汚い乞食の仲間には入らなかった。彼等は強請るのではなくて、単に哀願するだけであった。彼等はいつも薄ぐらい路地などを歩いていた。不思議な三幅対――もっと適切にいえば、老衰と、闇と、寂寞。
ところがこの姉は、或る晩、町はずれの見附門のそばの荒ら屋の中で、二人の弟の手に抱かれながら、声も立てないで静かに呼吸を引きとった。そのとき、唖は姉が断末魔の苦しそうな眼つきを見た。盲は握っていた手首にはげしい痙攣を感じた。それだけであった。彼女は無言のまま永久の沈黙に入ってしまったのである。
その翌くる日、町の人々は珍らしく、この乞食が男の兄弟二人っきりで歩いているのを見た。
二人は終日方々をさまよい歩いた。麺麭屋の前で立ちどまりもせなんだけれど、麺麭屋では例日のように少しの麺麭を恵んでくれた。日が暮れて、暗い街々に燈りがつき、閉まった鎧戸の蔭では、どの家もランプの灯でぱっと陽気になる時分、二人は貰いあつめた銅貨で貧弱な蝋燭を二本買い求めて寂しい小舎へ帰って行った。そこには粗末な寝床の上に、姉の遺骸が、枕頭にお祷りをする者もなく寂然と横たわっていたのである。