TORENDIA
「吶喊」原序
魯迅
TORENDIA
「吶喊」原序
本文約4,400字 ・ 読了時間 約9分
あらすじ(AIが作成しました)
父を誤診で亡くした経験から医学を志すも、国民の精神改変こそが重要だと悟った著者が、文芸運動を提唱し、雑誌の発行を目指す顛末を綴る。後に古碑を写して過ごしていた著者が、知人からの勧めで執筆した「狂人日記」を端緒に、寂寞を抱えながらも読者のために短篇を執筆し、それらを集成した経緯を論じる。本書がどのようにして生まれ、どのような思いを込めて作品がまとめられたのかという成立の由来を記す。
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🎧 「吶喊」原序 / 朗読音声: VOICEVOX:雨晴はう
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わたしは年若い頃、いろいろの夢を作って来たが、あとではあらかた忘れてしまい惜しいとも思わなかった。いわゆる囘憶というものは人を喜ばせるものだが、時にまた、人をして寂寞たらしむるを免れないもので、精神の縷糸が已に逝ける淋しき時世になお引かれているのはどういうわけか。わたしはまるきり忘れることの出来ないのが苦しい。このまるきり忘れることの出来ない一部分が今、「吶喊」となって現われた来由である。
わたしは、四年あまり、いつもいつも――ほとんど毎日、質屋と薬屋の間を往復した。年齢は忘れたが、つまり薬屋の櫃台がわたしの脊長けと同じ高さで、質屋のそれは、ほとんど倍増しの高さであった。わたしは一倍も高い櫃台の外から著物や簪を差出し、侮蔑の中に銭を受取り、今度は脊長けと同じ櫃台の前へ行って、長わずらいの父のために薬を買った。処方を出した医者はいとも名高き先生で、所用の薬は奇妙キテレツのものであったから、家へ帰ると、またほかのことで急がしかった。寒中の蘆の根、三年の霜を経た甘庶、番い離れぬ一対の蟋蟀、実を結んだ平地の木……多くはなかなか手に入れ難いもので、それでもいいが、父の病は日一日と重くなり、遂に甲斐なく死亡した。