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TORENDIA

牧野さんの死

本文約10,200字 ・ 読了時間 約21分

坂口安吾

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牧野さんの自殺の真相は彼の生涯の文章が最もよく語つてゐる。牧野さんの文学は自殺を約束したところの・自殺と一身同体の・文学だつた。

牧野さんは理窟の言へない人で、自分の血族と血族にあらざる者とを常にただ次のやうな言葉によつて区別してゐた。「あれはほんとの蒼ざめた悲しさの分る人だよ」牧野さんが僕の小説をほめる言葉「ねえ、ほんとに、なんとも言へない蒼ざめた君の姿があの中にあるんだよ」彼が私に今にも縋りつきさうな情熱に燃えて語る時、それは「蒼ざめた悲しさ」に就て語る時のほかになかつた。「ゲーテはたいへんな大法螺吹きだ。なんにも知らないくせに学者ぶつた顔をしやうとひどい苦労をしてよ、わははははは。あいつは大変な助平爺いだ!」酔つてゲーテを語る時、牧野さんの生き生きとした時間がそこにもあつた。ゲーテがさうであつたやうに、風景のよい隠棲の部屋で、窓によつて森や小川のせせらぎにとりまかれながら、彼も静かに死ぬのではないかと考へたこともないではなかつた。

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