カストリ雑誌などゝ云って、天下は挙げて軽蔑するけれども、これを一冊つくるんだって、容易じゃないよ。まア、社長の顔を見てごらんなさい。やつれていますよ。これは、キヌギヌの疲れ、などという粋筋のものではない。生活難です。
「オイ、居ると云っちゃ、いかん。居ると云っちゃ、いかん」
これが社長の口癖であった。彼は必死なのである。
なんとかして、カストリ社の入口に受附をつくらねばならぬ。入口の扉をあける。ビルの一室を占めているカストリ社の全景は、ただちに見晴らしではないか。これは怪しからん。
「ねえ、先生、ウアッ、怪しからん。生命にかかわる。わが社は、受附をつくらねばならぬ」
「なにィ」
このカストリ社は、社長を先生とよぶ。なぜなら、彼は文士である。文士であった。粋であった。通であった。粋にして、通なるものが、カストリとは、何事であるか。世の終りだ。
文藝春秋とか、鎌倉文庫とか、文士が社長の雑誌社は、例がある。然し、彼らは、カストリ雑誌ではなく、思想高遠、威名天下にあまねく、それらの偉大なる社に於ては、チンピラ記者といえども、カストリの如きは、飲まぬ。ワア、ひでえ。ひとり、わが社に於ては。
悲しい哉、カストリ社は、受附をつくるオカネもないのであった。
「ねえ、先生、受附、なんとかして下さいよ。文士だの、漫画家だのって、まア、うるせえなア。顔さえ見りゃ、原稿料、よこせえ、ワア、ひでえ。カストリ横丁のオヤジまで、借金サイソクに来やがんだもの。わが社に於ては、扉にカギをかけ、密室に於て事務をとる。そうも、いかねエだろうな。ねえ、先生」
「なにィ」
先生に話しかけても、ムダなのだ。先生は、世の雑音に対しては、なにィ、と一言答えるにすぎないのである。悲しいことを言うな。受附をつくりたいのは、先生自身の必死の願望であるぞ。なにィ。
ところがさ。はからずも、二十万円の現金が、ころがりこんできた。編輯長の花田一郎が、もらってきたのである。