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TORENDIA

カストリ社事件

本文約9,900字 ・ 読了時間 約20分

あらすじ(AIが作成しました)

カストリ社は生活難に苦しむ文士の社長と編輯長の花田一郎らが営む雑誌社である。運営資金に困窮する中、花田は知人の土建業者から二十万円の援助を受ける。しかし、その金銭と引き換えに車善八という男が社の経営に介入し始める。横暴な振る舞いで社員を叱責し、社の方針まで支配しようとする車に対し、花田は激しい抵抗を試みる。異様な緊張感の中でカストリ社を舞台に繰り広げられる騒動を描く物語である。

坂口安吾

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カストリ雑誌などゝ云って、天下は挙げて軽蔑するけれども、これを一冊つくるんだって、容易じゃないよ。まア、社長の顔を見てごらんなさい。やつれていますよ。これは、キヌギヌの疲れ、などという粋筋のものではない。生活難です。

「オイ、居ると云っちゃ、いかん。居ると云っちゃ、いかん」

これが社長の口癖であった。彼は必死なのである。

なんとかして、カストリ社の入口に受附をつくらねばならぬ。入口の扉をあける。ビルの一室を占めているカストリ社の全景は、ただちに見晴らしではないか。これは怪しからん。

「ねえ、先生、ウアッ、怪しからん。生命にかかわる。わが社は、受附をつくらねばならぬ」

「なにィ」

このカストリ社は、社長を先生とよぶ。なぜなら、彼は文士である。文士であった。粋であった。通であった。粋にして、通なるものが、カストリとは、何事であるか。世の終りだ。

文藝春秋とか、鎌倉文庫とか、文士が社長の雑誌社は、例がある。然し、彼らは、カストリ雑誌ではなく、思想高遠、威名天下にあまねく、それらの偉大なる社に於ては、チンピラ記者といえども、カストリの如きは、飲まぬ。ワア、ひでえ。ひとり、わが社に於ては。

悲しい哉、カストリ社は、受附をつくるオカネもないのであった。

「ねえ、先生、受附、なんとかして下さいよ。文士だの、漫画家だのって、まア、うるせえなア。顔さえ見りゃ、原稿料、よこせえ、ワア、ひでえ。カストリ横丁のオヤジまで、借金サイソクに来やがんだもの。わが社に於ては、扉にカギをかけ、密室に於て事務をとる。そうも、いかねエだろうな。ねえ、先生」

「なにィ」

先生に話しかけても、ムダなのだ。先生は、世の雑音に対しては、なにィ、と一言答えるにすぎないのである。悲しいことを言うな。受附をつくりたいのは、先生自身の必死の願望であるぞ。なにィ。

ところがさ。はからずも、二十万円の現金が、ころがりこんできた。編輯長の花田一郎が、もらってきたのである。

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