自転車嬢の危難
本文約23,300字 ・ 読了時間 約47分
あらすじ(AIが作成しました)
音楽教師のヴァイオレット・スミスは、亡き叔父の知人と名乗る男たちから求婚され、不審な影を感じてシャーロック・ホームズに相談する。自転車で一人歩きをする彼女が巻き込まれた、追跡劇や監禁を伴う複雑な事件を解決する過程を描く。調査を進める中で浮かび上がる背後の陰謀と、予期せぬ危難の連続が物語の軸となる。
リクエストが集まると、作家に音声化の需要が伝わります。
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一八九四年から一九〇一年までの八年間は、シャーロック・ホームズは、とても多忙な身であった。
この八年間に、公の事件で重大なものは、一つとしてホームズのところに、持って来られなかったものはなかったし、またその外に私的の事件で扱ったものは、無数で、その中でも、実に錯綜した難問題で、颯爽たる役目をやったものもたくさんあった。この雑多の仕事の中では、もちろんその大部分は、赫々たる成功を収めているのであったが、しかしまたその二三のものでは、全く避けがたい、不可能な失敗に終ったものもあった。こうして無数の興味ある事件の記録を、私は山積するほどたくわえてあるし、またその中の大部分には、私自身も関与しているので、まずどれから読者諸君の前に提供しようかと云うことは、私にとってはとても心迷いがされて、容易に決断のつかないことは想像してもらいたい。しかし私はやはり、以前からの習慣を踏襲して、事件の選択方針としては、事件が残忍で興味があったと云うことよりも、むしろその解決方法が実に巧妙で劇的であったと云う見地からしてみたいと思う。
こう云う理由から私はまず読者諸君の前にチャーリントンの、一人歩きの自転車乗り嬢であった、ヴァイオレット・スミス嬢の事件を、持ち出そうと思う。この事件は我々の探査が、意外から意外へと外れて、更に全く思いももうけなかった、悲劇のクライマックスを示した、全く意想外の興味ある事件だったものである。私の友人の有名を成さしめた事柄については、毎度お断りする通り、詳細に発表することは許されない事情にあるが、しかし私の浩翰な犯罪秘記の中でも、こうした小さな物語を書く上から云って、この事件は一段と際立った出色の点があると思われるのである。