南太平洋科学風土記
本文約13,700字 ・ 読了時間 約28分
あらすじ(AIが作成しました)
報道班員として南太平洋に勤務した筆者が、科学の視点から南方の風土や海上生活の経験を綴る。船酔いの発生要因を精神的な不安や環境面から考察し、克服のための心理的アプローチを説く。また、熱帯の海が持つ独特の色彩や透明度の高さを描写し、軍艦や大型船における制限された水の使用方法と、戦地で得た皮膚病を癒やした帰還時の記憶を収める。
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第一回
はしがき
題して南太平洋科學風土記といふが、實は私が報道班員として南太平洋に勤務してゐた時に見聞したあちらの事情を、科學の目を通じて思ひ出すままにくり擴げようといふのである。餘り戰鬪や作戰とは關係のない至極のんびりしたものになるかも知れないが、これは戰鬪報道記ではないのであるから、そのつもりでお讀み捨て願ひたい。
船醉ひ
私たちがいよいよ南方へ下ることとなつて内地の港を出發したのは寒い一月の初めであつた。そこで私たちは二萬數千トンもある大きな船に便乘した。この船はそのトン數から見ても分るやうに非常に大きな船である。丁度盥を海に浮べたやうな恰好で、船足も餘り早くない。その上甲板では、普段なら野球が二組ぐらゐ充分出來るくらゐの廣さのものであつた。
かういふ大きな船に乘つて南へ下つて行くのであるから、われわれ仲間は所謂大船に乘つた氣持になつて、別に大したピッチングやローリングもなく、航海は船醉拔きの至極安全なものであらうと考へてをつた。ところが實際船が港を出て或る海峽を越え、いよいよ太平洋に出たところ、もうそのとたんに仲間の數名はひどい船醉を感じて部屋の中にとぢ籠つたきりとなつた。私は多分その班員たちが出發前に心身ともに大いに疲勞してゐたので、その疲れのせゐで引籠つて居るのだとばかり思つてゐたが、扉を叩いて彼等の枕邊に立つた時、船醉であることを發見して非常に驚いた。なにしろこのやうな大きな船であるから、波が相當荒くても、また大きなうねりがやつて來ても、船はその波の上に乘つて殆んど搖れないで海峽を通り過ぎたので、別に船醉をする餘地がなかつたやうに思ふ。然るにこの仲間たちは確に船醉を催してゐるので、私は船醉の原因がどこにあつたのかと、その意外さに目を見張るばかりであつた。