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TORENDIA

登つていつた少年

本文約3,400字 ・ 読了時間 約7分

あらすじ(AIが作成しました)

学芸会の出し物が対話劇に決まり、村の子供たちはその配役に心を躍らせる。優等生で富裕なツルが女王役に、自信家だが貧しい杏平や社交性のない全次郎が樵夫役に擬せられ、少年少女たちは期待と緊張の中で先生の発表を待つ。ある日、杏平は梅の種を割る行為に得体の知れない衝動を覚え、夜には仲間と火の見櫓へ登る冒険を企てる。他の少年たちが恐怖で足を引き返す中、杏平は優越感を抱きながら一人高く登り続け、日常のなかで内面的な変容を迎える姿を描く。

新美南吉

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🎧 登つていつた少年 / 朗読音声: VOICEVOX:玄野武宏

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一年一回の学芸会が近づいて来た。小さい村の二百に充たない小さい魂は二月も前から小鳥が春を待つやうに待つてゐた。この頃になると少年少女達の眼は急に注意深くなつて先生のどんな小さな表情、どんな微かな挙動をも見のがさない。特に成績がよくて学芸会に出ることを約束されてゐる児童達がさうだつた。

遂々或る日先生が口をきつた。それは唱歌の時間が終りかけたときだつた。その時間の始めから生徒達はうすうす感づいてゐた。先生が一人々々の咽喉をためすやうに、唱歌の一句切づつを歌はせたからだつた。先生は誰と誰を学芸会に出すかを定めるためそんなことをしたのに違ひない。或ひはもうとつくに先生の肚の中では配役はきまつてゐたのかも知れない。

「学芸会には何をしようか」と先生は嬉しさに輝き始めた少年と少女達の顔を見下してくすぐつたさうに言つた。「対話劇か唱歌か。」

少年達はたつた一つの意見しか持つてゐなかつた。対話劇である。少年達は唱歌などめめしいものだと考へてゐた。しかし少女達は容易に彼女らの意見をのべなかつた。先づ彼女らは教室の隅に一つの秘密をでも守るやうにかたまつて、そこでひそひそと囁きあつたり、友達の肩を叩いたり、「いやあ」と叫んだりした。それが先生にも少年達にも、彼女らが急に「女」になつたことを感じさせた。少年達は腹立たしかつたが、仕様のないものと思つた。

少年達は少女達の中心にツルがゐて、彼女が少女達の輿論を牛耳つてゐるのを見た。ツルは何事にも抜群の成績を示した。算術のとき少女達の中から一番先に手をあげて答を正しく言ふものは彼女であつた。読み継ぎ競争のとき、最後まで一字も読み違へずにりりしく読んでいくものは彼女だつた。彼女の書体はふくよかで美しかつた。彼女の画は環境の豊かさを感じさせ、色彩が若芽のやうに新鮮だつた。彼女はまたよく発達した四肢と端麗な容貌を持つてゐた。彼女の前に転がつていつたボールを拾つて来るとき、顔をあからめて来ない少年はなかつた。彼女にからかつた少年は他の多くの少年達の反感と嫉妬を買つた。そして彼女の家は富んでゐた。

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