TRENDIA CLASSIC
牛
岡本綺堂
1 / 7
上
「来年は丑だそうですが、何か牛に因んだようなお話はありませんか。」と、青年は訊く。
「なに、丑年……。君たちなんぞも干支をいうのか。こうなるとどっちが若いか判らなくなるが、まあいい。干支にちなんだ丑ならば、絵はがき屋の店を捜してあるいた方が早手廻しだと言いたいところだが、折角のおたずねだから何か話しましょう。」
と、老人は答える。
「そこで、相成るべくは新年にちなんだようなものを願いたいので……。」
「いろいろの注文を出すね。いや、ある、ある。牛と新年と芸妓と……。こういう三題話のような一件があるが、それじゃあどうだな。」
「結構です。聴かせてください。」
「どうで私の話だから昔のことだよ。そのつもりで聴いて貰わなけりゃあならないが……。江戸時代の天保三年、これは丑年じゃあない辰年で、例の鼠小僧次郎吉が召捕りになった年だが、その正月二日の朝の出来事だ。」
と、老人は話し出した。
「今でも名残をとどめているが、むかしは正月二日の初荷、これが頗る盛んなもので、確かに江戸の初春らしい姿を見せていた。そこで、話は二日の朝の五つ半に近いころだというから、まず午前九時ごろだろう。日本橋大伝馬町二丁目の川口屋という酒屋の店さきへ初荷が来た。一丁目から二丁目へかけては木綿問屋の多いところで俗に木綿店というくらいだが、この川口屋は酒屋で、店もふるい。殊に商売であるから、取分けて景気がいい。朝からみんな赤い顔をして陽気に騒ぎ立てている。
岡本綺堂の他の作品
TRENDIA CLASSIC
中国怪奇小説集
岡本綺堂
中国怪奇小説集
岡本綺堂 ・ 約2分
TRENDIA CLASSIC
赤い杭
岡本綺堂
赤い杭
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
赤膏薬
岡本綺堂
赤膏薬
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
秋の修善寺
岡本綺堂
秋の修善寺
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
穴
岡本綺堂
穴
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
麻畑の一夜
岡本綺堂
麻畑の一夜
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
雨夜の怪談
岡本綺堂
雨夜の怪談
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
一日一筆
岡本綺堂
一日一筆
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
磯部の若葉
岡本綺堂
磯部の若葉
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
池袋の怪
岡本綺堂
池袋の怪
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
異妖編
岡本綺堂
異妖編
岡本綺堂
TRENDIA CLASSIC
海亀
岡本綺堂
海亀
岡本綺堂