TRENDIA CLASSIC
棄轎
田中貢太郎
1 / 1
上州の田舎の話である。某日の夕方、一人の農夫が畑から帰っていた。それは柄の長い鍬を肩にして、雁首を蛇腹のように叩き潰した煙管をくわえていた。そして、のろのろと牛のように歩いていると、路傍の松の木の下に異様な物を見つけた。
「ほう」
それは見る眼にも眩しい金と銀の金具をちりばめた轎であった。
「諸侯の乗るような轎じゃねえか」
それにしても、轎夫もいなければ伴の者もいない。まるで投げ棄ててでもあるように置いてあるのが不思議でならなかった。轎の中はひっそりとしていて、何人も乗っていそうにないし、見ている漢もないので、轎の傍へ寄って往って垂れをあげた。垂れをあげて農夫は驚いた。轎の中にはお姫さまのようなな女がいた。
「これは、どうも」
農夫はあわてて垂れをおろそうとしところで[#「おろそうとしところで」はママ]、女がちらとこっちを見た。同時に農夫はのけぞった。
「わ」
それは眼も鼻も口もないのっぺらぽうの顔であった。農夫は転げるように逃げ帰ったが、それから病気になって死んでしまった。
その農夫が怪しい轎を見た日のこと、それから数分と経たない時刻に、その村からよっぽど離れた村の農夫が、これも畑から帰っていると、路傍に金と銀の金具のある轎があった。不思議に思って垂れをあげて見ると、中にお姫さまのような女がいた。そして、驚いて垂れを下ろそうとしたところで、女が顔をあげたが、それもやっぱりのっぺらぽうであった。で、その農夫も仰天して逃げ帰ったが、これも病気になって死んでしまった。
田中貢太郎の他の作品
TRENDIA CLASSIC
男の顔
田中貢太郎
男の顔
田中貢太郎 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
終電車に乗る妖
婆
田中貢太郎
終電車に乗る妖婆
田中貢太郎 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
天井からぶらさ
がる足
田中貢太郎
天井からぶらさがる足
田中貢太郎 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
老犬の怪
田中貢太郎
老犬の怪
田中貢太郎 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
藍瓶
田中貢太郎
藍瓶
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
藍微塵の衣服
田中貢太郎
藍微塵の衣服
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
愛卿伝
田中貢太郎
愛卿伝
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
青い紐
田中貢太郎
青い紐
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
青い紐
田中貢太郎
青い紐
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
赤い土の壺
田中貢太郎
赤い土の壺
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
赤い牛
田中貢太郎
赤い牛
田中貢太郎
TRENDIA CLASSIC
赤い花
田中貢太郎
赤い花
田中貢太郎