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TORENDIA

二通の書翰

本文約1,300字 ・ 読了時間 約3分

あらすじ(AIが作成しました)

明治三十年前後の鎌倉、饅頭屋の主翁からある別荘の女に招かれた××君は、かつて横浜で投身しようとしていたところを助けた縁がある女性と再会する。その後、二人は親密になるが、軍の演習で佐倉へ向かった男は、女の身を案じ手紙を出す。時を同じくして、饅頭屋には男からの手紙と、女の家からの手紙が届く。主翁がそれらを開封したことで、二人の運命が交錯する不思議な報せが明らかになる。

田中貢太郎

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小説家後藤宙外氏が鎌倉に住んでいた比のことであると云うから、明治三十年前後のことであろう、その時鎌倉の雪の下、つまり八幡宮の前に饅頭屋があって、東京から避暑に往っていた××君がその前を通っていると、饅頭屋の主翁が出て来て、

「あなたは××さんと云う方ではございませんか」

と己の姓名を云うので、そうだと云うと、

「こんなことを、だしぬけに申しましては、へんでございますが、二階堂の方の別荘にいらっしゃる――と云う奥さんが、あなたをお見かけ申したら、どうかお遊びにいらしてくだされるように、お願い申してくれと、こんなに申しつかっておりますから、どうかそこへお遊びに往ってやってくださいませ」

と云った。××君はそんな女にちかづきはなかった。

「それは、なにか人ちがいでしょう、僕はそんな方は知らないから」

「奥さんも、わたしの名なんかお忘れになっていらっしゃるだろうが、たいへん御厄介になった方だから、是非お目にかかりたいと思っているうちに、昨日八幡様の前でお目にかかったから、その時声をかけようと思っているうちに、つい声をかけそこなったから、明日でもこうしたかっぷくの方で、××さんとおっしゃる方がお通りになったら、どうしてもお遊びにいらっしてくださるように、お願いしてくれと、くれぐれもお頼みになって帰りました、決して人ちがいではございません、どうかお遊びに往ってくださいまし」

主翁が一所懸命になって云うので、避暑に来て怠屈している時であったから、時間つぶしにと思って番地を聞いたうえで出かけて往った。そこは二階堂の別荘建の家で、案内をこうて入って往くと、待ちかねていたとでも云うようにして丸髷の美しい女が出て来た。

「これは、ようこそいらっしてくださいました、とても御記憶はございますまいが、わたしは、非常に御恩になったものでございます、さあ、どうかずっと」

女は嬉しくてたまらないようであるが、××君はどうしても知らない女であった。

「私は、××ですが、――人ちがいではないでしょうか」

「けっして人違いではございません、さあ、どうか」

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