TRENDIA CLASSIC
長島の死
坂口安吾
1 / 7
長島に就て書いてみたところが、忽ち百枚を書いたけれども、重要なことが沢山ぬけているような気がして止してしまった。長島は私の精神史の中では極めて特異な重大な役割を持っているので、私の生きる限りは私の中に亡びることがないのである。従而、今あわただしく長島の全てに就て書き尽すまでもなく、これからの生涯に私の書くところの所々に於て、陰となり流れとなって書き尽されずには有り得ないのであろう。今は簡単に長島の死に就て書くことにする。
私の知っているだけでも、長島は三度自殺を企てた。その都度、遺書、或いは死に関する感想風のものを受けとるのは私の役目――全く役目のようなものであったし、同時にその家族に依頼を受けて、死に損った長島と最初の話を交すのも私の役目であった。考えてみると、実に根気よく自殺を企て、根気よく失敗したものだと思う。無論、酔狂や狂言の自殺ではなかったのである。一度は信濃の山奥の宿で、これは首を吊ったのだが、縄が切れて、血を吐いて気を失って倒れているのを発見された。次には横須賀の旅籠で、次には自宅で。これは致死量以上の劇薬を嚥みすぎて結局生き返ったのである。このほかにもやっていないとは言えない。一週間ばかりというもの、連日つづけさまに死に就ての已に錯乱した感想を受けとった記憶が二度ばかりあるが、その結果がどうなったことやら私は忘れた。とにかく、毎年春になると一種の狂的な状態になるのである。これは如何ともなしがたい生理的な事柄であるから、仕方がなかった。
坂口安吾の他の作品
TRENDIA CLASSIC
甘口辛口
坂口安吾
甘口辛口
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
育児
坂口安吾
育児
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「大国主命」
坂口安吾
「大国主命」
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
近況報告
坂口安吾
近況報告
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
今後の寺院生活
に対する私考
坂口安吾
今後の寺院生活に対する私考
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
今後の寺院生活
に対する私考
坂口安吾
今後の寺院生活に対する私考
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
作者附記〔「火
」『群像』連載
第一回〕
坂口安吾
作者附記〔「火」『群像』連載第一回〕
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「鷹」
坂口安吾
「鷹」
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
単独犯行に非ず
坂口安吾
単独犯行に非ず
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
当世らくがき帖
坂口安吾
当世らくがき帖
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「復員殺人事件
」について
坂口安吾
「復員殺人事件」について
坂口安吾 ・ 約1分
TRENDIA CLASSIC
「文芸冊子」に
ついて
坂口安吾
「文芸冊子」について
坂口安吾 ・ 約1分